埼玉・在日クルド人の今―暴走する「ヘイト」は止まらないのか
差別の対象は「コロコロ」変わる
クルド人ヘイトが流布、可視化されたのは1年前からだ。それ以前に川口市などでヘイトの対象となっていたのは中国人で、「出ていけ」「追い出せ」といったネット上の書き込みはもちろん、排斥を訴える集会やデモが行われていた。 そもそも、最初の標的は在日コリアンだった。それが中国人、そしてクルド人に移ったのだ。差別する側のプレイヤーは同じだが、差別の対象はコロコロ変わる。そして、デマによって特定民族がヘイト被害を受ける構図は、変わらない。 つい先日、クルド人解体業者の仕事現場に同行取材した。粉じん飛散を防ぐ処理から近隣住民への気遣いまで、想像以上に丁寧な仕事ぶりだった。県外の現場からトラックで川口市に戻る途中のことだ。首都高速を走りながら、運転席のK社長がつぶやくように言った。 「川口に帰るのが憂鬱(ゆううつ)になる。以前は、川口の街並みが見えてくると安心したのに。家族や友人が待つ町だから。いまは不安で仕方ない。帰ると、クルド人であることを意識しちゃう。クルド人、怖いですか? 私は差別されること、怖いです」 いま、本当の恐怖を感じているのはクルド人の側なのだ。
【Profile】
安田 浩一 ノンフィクションライター。事件・社会問題を主なテーマに執筆活動を続ける。1964年生まれ。ヘイトスピーチの問題について警鐘を鳴らした『ネットと愛国』(講談社)で2012年、第34回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書多数。最新刊に『地震と虐殺 1923-2024』(中央公論新社)。