自民党総裁選と「はだしのゲン」をつなぐ不等式
ここで法人税を見てみよう。法人税は基本的に累進課税ではない。ただし、年商800万円以下とそれ以上で税率が異なる。年商800万円以上では1984年には43.3%だった。それが数度の引き下げを経て、現在は23.2%。驚くことにこの40年でほぼ半分に減税されているのである。 消費税の導入と引き上げは法人税とリンクしている。1989年に消費税3%が導入された。同年、法人税は37.5%に引き下げられている。97年に消費税は5%に増税された。99年と2000年、法人税は34/5%、そして30%と段階的に大きく減税されている。14年に消費税8%へと増税。それに先だって法人税は12年に30%から25,5%に引き下げられている。そこからも法人税は15年に23.9%、16年に23.4%、18年に23.2%とじわじわと下げられ、その一方で19年、消費税は10%となった。 国全体で見ると、消費税による増収分は所得税や法人税の減税分の補填に回っており、北欧諸国のように国民全体に福祉として還付されていない。このため逆進性を持つ課税により、社会格差は拡大する一方である。 ●生産年齢人口、社会保障費だけが問題じゃない このことに、ピケティが実証した、「資本主義社会はr>gである」という事実が重なる。 すると何が起きるか。 まっさかさまにおちてでざいあ~、だ。ただでさえ格差が拡大する性質を持つ資本主義の社会で、税が累進性を失ったことによる、急速な社会格差拡大、そして格差拡大による日本の没落。 今、私たちが見ている日本社会の、日本経済の現状である。 日本の急成長と失速の理由は、生産年齢人口の増減ばかりが取り上げられる。だが、原因はそれだけではなさそうだ。日本は、「高い累進性を持つ税制」の下、ケインズ経済学的な社会投資を進めて高度経済成長を達成し、その後も経済成長を続けて1980年代の「ジャパン・アズ・ナンバーワン」に至った。しかし1989年に消費税導入が始まり、そこから、税の累進性がどんどん弱められ、消費税は増税され、そして「まっさかさまにおちてでざいあ~」で今に至る、という見方もできるのである。 消費税については、「消費税よりもどんどん上がる社会保険料が悪い。高齢化社会の到来で老人が増えるほど、社会保険料が上がっていく。老人福祉を削れ」という意見もある。これに対する正解は、「消費税も定額の社会保険料も逆進性があるので等しく社会格差を拡大する悪い制度」というものだ。そして、そもそも老いない者はいないのだから、老人福祉を削って得をする者はいない。未来の自分を苦しくするだけである。 じゃあどうするか。話は同じだ。年金にせよ健康保険にせよ、社会保険料を徴収するなら、こちらもかつての所得税のような強い累進性を採用するべきなのである。高い累進性を持つ税制から社会保険にお金を回して、社会保険料を安い定額に据え置けばいい。 ●サラリーマンとは(ある意味)気楽な稼業 長い間、私にとって経済学というのは訳の分からない学問だった。需要と供給の関係が崩れれば価格が変化してまた均衡するとか、「それがどうした」としか思えなかった。そんなことよりも、加速度を時間積分すると速度になり、速度の時間積分が距離になるほうが面白かった。揚力が速度の2乗で大きくなるほうが興味深かった。複素関数の留数のほうが刺激的だった。消費税にも興味はなかった。 「これではいけない」と思ったのは、もう50歳を過ぎてから、2014年に消費税が5%から8%になった時だ。この時、文字どおりの肌感覚で自分の財布が一気にさびしくなるのを体験した。 「これはえらいことだ、消費税とは何かものすごく悪い制度ではないか」と、大学を出てからずっとフリーランス一筋で通している友人に話したら、「はあ? 今ごろ何言ってんだ」と怒られた。 「消費税が3%から5%になった時も、ものすごく景気が冷えたぞ。お前は何も感じなかったのか」 感じなかったのはなぜか。1997年の消費税5%の増税の時、私はまだサラリーマンをしていた(コンプラ的にはビジネスパーソンと書くべきだろうが、ご容赦願いたい)。