日本の漁業を守るフードジャーナリストの歩み「世界一豊かな“日本の美味しい海”を守りたい」
トップシェフたちと共に、日本の海の豊かさを守る一般社団法人Chefs for the Blue。 ▶︎すべての写真を見る 設立したのは、食文化やサステナビリティを主なテーマにフードジャーナリストとして活動する佐々木ひろこさんだ。 なぜジャーナリストが“発信”ではなく“場づくり”を行ったのか。詳しく伺った。
世界一の豊かさを誇る日本の海の多様性
大学卒業以来、企業の法務部に勤めるも、20代後半にキャリアチェンジ。佐々木ひろこさんは渡米して大学でジャーナリズムを学び、食が好きだったことから調理学校へ通った。 2年を過ごして帰国したのちはフリーランスに。雑誌をはじめとするフードメディアで、食の作り手、グルメ事情、最新レストランといった食全般をテーマにフードジャーナリストとして取材・執筆活動を展開していった。 とはいえ手掛けたコンテンツの趣はエンタメといってよく、データやエビデンスなど客観性を重視するジャーナリズムとは異なる領域だったと振り返る。 活動の転機は9年ほど前、漁業と向き合う仕事で水産物の危機的状況を知り、衝撃を受けたことにある。以降、それまで私生活でも行くことの少なかった海と深く関わっていくように。 2018年には一般社団法人Chefs for the Blueを設立。目的は、日本が誇るトップシェフたちとともに「日本の豊かな海と食文化を未来へつなぐ」こととした。 ではなぜジャーナリストが活動を変えたのか? 理由は、そうしなければ「伝わらない」「間に合わない」と痛感した現実があったから、だった。 「9年前の時点で既に漁獲量はピーク時の3分の1になっていました。どこの浜でも量が獲れない。大きなサイズもかつてのようには獲りづらくなった。 関係者の間にそのような声が増えた主要因は、大きなサイズのものは獲り尽くし、成長する前の魚も獲ってしまっていることでした。 そうした専門家の話を聞いて、私は腰を抜かすほどびっくりして、そして落ち込んだんです。20年ほど食の専門家として仕事をしてきて、まったく知りませんでしたから。 それに国外の取材も多かったことから、海外のシェフたちが非常に高い敬意を日本の水産物に持っていることを知っていました。しかし実情は足元が大きく揺らいでいる。 その現実に驚き、とにかく何が起きているのかを学ばなければ、と思ったんです」。 日本近海の魚の素晴らしさは魚種の多さにあるという。漁場は広さのみならず深さがあり、体積でいうと世界で4番目に大きなものとなる。 加えて川のような流れを持つ海流が列島の近くを走る。そのため定着性と回遊性の魚が獲れるのだ。 さらに水産庁などが発表している公式データによると、世界にはおよそ1万5000種類の海水魚がいて、そのうち3700種が日本近海に生息しているという。 魚種の多様さについて佐々木さんは「海の中の豊かさは世界一」なのだと言った。 「魚の流通も昔から発展しているのが日本です。16世紀頃には大阪に魚市場があり、瀬戸内海や日本海の魚が水上交通を使って集まっていました。 江戸時代に入ると東京・日本橋川に沿って魚河岸が生まれるなど、日本人は当時から魚を食材として扱い、流通させるシステムを構築していたのです。 それは日本が誇る経済的資産、文化的資産といってよく、またそのような背景を知っているから、日本で魚の勉強をしたいと考える海外のシェフは多いのです」。 魚種、流通、食文化、欧米からの敬意という複数の視点から日本の魚を捉えてきた佐々木さんだから、漁獲量が減ったという専門家の説明に唖然とした。 フードメディアで発信するだけでは未来が危うい。そう強く感じ、活動の場を広げたのである。