東京大学の学費値上げは本当に必要なのか? オンラインによる「総長対話」で浮き彫りになった驚くほど閉鎖的な体質
「交渉の場ではない」と学生からの要望を回避
<(2)東大の不透明な意思決定プロセスは学生を無視している> (2)については、まず今年5月15日の報道で発覚するまで東京大学は学費値上げ検討を一切公表しなかったという事実が、不透明なプロセスを象徴している。 一方、学生側(教養学部学生自治会、学費値上げ反対緊急アクション等)は約1か月後(6月21日)に予定されていた総長対話(藤井輝夫総長と東大生が学費値上げ問題について対話する場)に向けて、以下のとおり極めて迅速に対応した。 ・総長対話の形式について2回(5月21日、同27日)にわたって大学側に要望(対面で複数回開催すること、徹底的な討論の場とすること等) ・6月14日に院内集会および記者会見を開催し、問題点を国会議員およびメディアに訴求 *他にも学生向けアンケート、学内集会、学生投票などさまざまな活動を実施 しかし、こうした迅速かつ堂々とした学生側とは対照的に、大学側は学生を無視するかのような対応だった。学生側の要望であった総長対話の形式に関して「対面開催」ではなく「zoom開催」に固執した上、複数回開催を拒否。 さらに、総長対話の位置付けとして「交渉の場ではない」という表現を繰り返し明記したことで、その閉鎖的な体質も浮き彫りとなった。 <(3)そもそも東大の学費値上げの必要性に大きな疑問符が付く> 2004年の国立大学法人化以降、運営費交付金が段階的に1割以上も削減され、多くの国立大学の経営が厳しくなったことは事実である。 これに加えて、昨今の光熱費・人件費増加に対応するため学費値上げが必要であると東京大学は主張している。しかし、この説明には以下のとおり多くの問題点がある。 ・直近(2022年度)の財務諸表で慢性的赤字は確認できず、むしろ経営は安定している。 ・今回の学費値上げによる年間増収29億円(=1人あたり約10万円×学生数 約29,000人)は経常収益(2022年度 2663億円)のわずか1%程度にしか相当しないため、学費を値上げしても経営改善に大きな影響はない。 ・大学側は財務諸表に基づく「学費値上げ」の必要性を説明できおらず、むしろ説明を避けている。実際、総長対話で上記2点の不審点を学生からストレートに指摘された際、論点を逸らす説明に終始して財務諸表の数字には頑なに言及しなかった。 ・学費値上げによる増収の使途について、大学側は「グローバル化」「DX」「ダイバーシティー&インクルージョン」など曖昧なキーワードによる説明にとどまり、具体的な使途や内訳金額は現時点では不明。
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