「お高くとまっていては、廃れていってしまう」引退から10年…元フィギュアスケーター町田樹(34)が研究者になった理由とは
選手時代に自然と習得していたもの
町田 身体を言語化するためには、まず、私たち人間の身体がどのような仕組みで成り立っているのかを理解する必要があります。もちろん私は医者ではなく人文社会学系の研究者なので、医学的な知識はありませんが、選手時代も、大学院に入ってからも、人体について書かれた本をしっかり読み込んで、その仕組みを頭にインプットしていました。これによって、言語化がかなり容易になったのは間違いありません。 でも思えば、人体を構造で理解しようとする意識は、選手時代に自然と習得していたものだったとも言えるかもしれませんね。例えば、フィギュアスケーターの技の一つに「ジャンプ」があるのは広く知られていると思います。普通にいけば、骨盤と膝を曲げて、次いで足首を曲げて、まっすぐ踏み込んでジャンプする、というふうに一連の運動を説明するところですが、これは言語化としては不十分です。 「踏み込む」と一言で言っても、その時、競技者の体重がかかっているのが親指側なのか、小指側なのかによって、そのジャンプはまるで違ったものになってしまうからです。こうした差異は、外から見ている人間には不可知ですが、きちんと言語化し、意識することができなければ、競技者当人にとっても「なんとなく」しか理解することができず、結果的に、身体のコントロールの精度も低いものになってしまうでしょう。 ――つまり、再現性も低くなってしまう、と。このことは、選手のコーチングにも大きな影響を与えそうですね。 町田 もちろんです。だからこそ、コーチも競技者も、ともに身体の仕組みを理解していないといけません。双方が身体を理解し、それを言語化できるようにならないと、動きの修正や身体の強化などもできませんからね。つまりコーチと競技者にとって、身体に関する知識は、ある種のコミュニケーションツールだと言っていいでしょう。
長嶋茂雄氏のコーチングは…
――では、同じ言語化でも、野球の長嶋茂雄氏の有名な「シャーッときてググッとなったら、シュッと振ってバーン」的なコーチングはどのように位置付けられるのでしょうか。少なくとも、町田さんのおっしゃるそれとは、真逆の方向性ですよね。 町田 面白いのは、長嶋さんのコーチングにおけるオノマトペ的表現というのも、決して悪いものではないのです。オノマトペも、確かに身体感覚の一つではあって、それによって「伝わる」ものも間違いなくある。ただ、かなりの天才タイプでない限り、それ“だけ”ではスポーツのコツは掴み切れないと思います。 オノマトペ的な指導や言語化の方法というのは、その人固有の身体認識であって、仮にAさんに通じることがあったとしても、同じことがBさんにも通ずるかどうかは分からない。つまり、汎用性が低い。人間の身体は、一様ではありません。基本的構造は一緒でも、腕の長さも、関節の可動域もそれぞれ異なります。ですから、選手のコンディションが悪かったり、スランプに陥っている時などは、そうした知覚的な認識だけだと、どこをどう修正すれば良い状態に持っていけるのかが分からなくなってしまう。
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