県警に「絶対謝らないで」と頼まれた。20年前を回想する元公安委員長「県警は本部長を守る組織。今も大差ない」
鹿児島県警の不祥事を巡り、県警を管理する「県公安委員会」の在り方が問われている。県民の代表と位置付けられ、警察業務に県民の考えを反映させるという任務を負うが、活動内容が知られる機会はほとんどなく、機能しているか疑問視する声もある。連載「検証 鹿児島県警」の第2部は、県公安委の実態を捉え、県警の信頼回復へ果たすべき役割を考える。(連載・検証鹿児島県警第2部「問われる公安委」②より) 【関連】「本音を聞きたい」公安委の要望で実現した県警職員との座談会。公開したのは冒頭のあいさつだけ。理由は「カメラがあると萎縮するから」
6月21日午後3時、鹿児島県警は一連の不祥事や前生活安全部長による情報漏えいについて記者会見を開いた。野川明輝前本部長を中央に幹部らは横一列に座り、報道陣と向き合った。不祥事の詳細に加え、前生安部長が主張する野川前本部長による隠蔽(いんぺい)疑惑に言及するかが注目された。 一通り説明を終えた野川前本部長は「県公安委員会からコメントをいただいているので、警務部長から説明させます」と口にした。水を向けられた西畑知明警務部長は資料を手に、「本日、文書が発出されたので代読させていただきます」と前置きし、「県警から調査状況の報告を随時受けてきた。本部長が隠蔽を指示したと判断する事実は認められない」と読み上げた。 会見の数時間前には、前生安部長が国家公務員法(守秘義務)違反の罪で起訴されたとの速報が出たばかり。隠蔽疑惑を巡り主張が食い違う2人の立場は対照的になった。 ■ □ ■ 県公安委は何を根拠に隠蔽はなかったと判断したのか。これまでの説明では、「県警から11回報告を受けた。野川前本部長や警務部長に疑問点を確認するなどして委員3人で検討した」としている。
9月の県議会では議員から質問が相次いだ。一人は「県警側の情報だけに基づいた判断だ。どこまで正確性があるのか」と疑問視。「中立的な立場であれば、(前生安部長を含め)意見の食い違う両者から話を聞くという考えはなかったのか」と指摘した。 相次ぐ不祥事に、石窪奈穂美委員長は県民の信頼を失った懸念があるとした上で「県警が策定した再発防止策に取り組むことで信頼回復につながる」と述べた。議員からは「県民の意識とずれがある。県公安委は県民と県警のどちらの代表か分からない」などと非難の声が上がった。 ■ □ ■ 「県公安委には調査権がないため、県警から報告を受けるほかない」と話すのは、約20年前に2期6年委員を務めた元委員長(86)だ。 当時は、県議選を巡る公職選挙法違反が疑われた「志布志事件」が注目されていた。定例の委員会で、事件について疑問をぶつけたものの、県警は「適正な捜査をする」と繰り返すだけで、真相に迫れなかったと振り返る。
県議会では自分の言葉で受け答えするつもりだったが、県警から「絶対に謝らないでほしい」と頼まれ、答弁用の書面を渡されたという。そばに控える警察官が気になり、葛藤を抱えながら文面通り述べた場面が記憶に残る。 「県警は本部長に傷をつけないように守る組織で、県公安委もその枠組みに組み込まれてしまった」と回想する。野川前本部長の隠蔽疑惑や県警不祥事への対応を見て「当時も今も、実態は大差ないように感じる」と話す。
南日本新聞 | 鹿児島