五輪控えるパリの「不都合な真実」。でこぼこの石畳、階段しかない地下鉄…花の都は「バリアー」だらけ
マイユさんは「高齢化するフランス社会でバリアフリーは障害者だけの問題ではない。大会を機に意識が高まってほしい」と思いを明かした。 ▽背景にあるのは国民性の違いなのか パリ在住のウェブ開発者で車いすユーザーの市田享さん(59)にも話を聞いた。市田さんは昨年久しぶりに日本に帰国し、パリと東京のバリアフリー格差に改めて驚いたという。「東京では車いすでも地下鉄でどこでも行ける。エレベーターはちゃんと動くし、間違えてエレベーターのない出口に向かうと駅員さんがどこからともなく飛んできて教えてくれました」 パリでの住まいは地下鉄駅に近い市内の住宅街。地下鉄を使うことはできず、車でも困ることは多い。例えばパリに多くある地下駐車場。駐車したのに地上へのエレベーターが故障していることが非常に多いという。妻富美子さん(54)は「駐車する前にエレベーターが動いているかを必ずチェックするようになりました」と話す。
日本ならすぐに修理され、放置しようものなら苦情が殺到しそうだ。なぜなのか。市田さんが常々感じているのは、「日本のような完璧なサービスは目指していないのかもしれない」ということだ。「フランス人だって故障はないほうがいいし、壊れたらすぐに直してほしい。でも『そんなもんだよね』という諦観があるのでしょう」 困ることもあるが、市田さんはフランスの“緩さ”に居心地の良さも感じているようだ。理由を尋ねると「僕の主観ですが」と前置きしつつこんな答えが返ってきた。「日本の『完璧』を目指す姿勢は素晴らしい。でもそれを維持するためには誰かが大変な無理をしてるのではないかとも思うのです」 ▽市井の人が支えるバリアフリー 気さくなパリジャンに助けられた経験についても教えてくれた。まだ松葉づえを使って歩いていた若いころの話だ。地下鉄駅の階段を上っていたら「君はヒーローだ」と励まされた。ライブハウスの階段を前に諦めて帰ろうとしたら、断る間もなく屈強なスタッフが車いすごと担いでくれた。市田さんはそれを「市井の人が支えるバリアフリー」と表現する。