五輪控えるパリの「不都合な真実」。でこぼこの石畳、階段しかない地下鉄…花の都は「バリアー」だらけ
マドレーヌ駅の出口からコンコルド広場までは約600メートルを歩く。石畳の路面が大きくうねっている箇所があり、マイユさんは慎重に車いすを走らせる。「ひっくり返りそう。電動車いすだからなんとかなるが、手動だったらまず無理だ」 工事現場や段差は回り道して避けながら、ようやくコンコルド広場に着いた。五輪では即興でダンスを競い合う新種目「ブレイキン」や、東京で関心を集めたスケートボードなど都市型スポーツの舞台になる。パラリンピックでは開会式の会場。周囲では観覧スタンドの設置工事が進んでいた。期間中のにぎわいを想像しつつ、時間を確認すると午後4時。出発から1時間で、時間は通常の3倍かかった。 次にブラインドサッカーや柔道などがあるエッフェル塔周辺へ向かう。移動手段は「完全バリアフリー」と言われているバス。安心して乗れると思いきやここにも壁が。マイユさんが「降りられないバス停もあるから注意して」と声をかけてくれた。
路線図を見ると、車いすが使えないと表示された停留所がいくつもある。目的地に表示が無いことを確認。可動式スロープを出してもらい乗り込んだ。 ▽バリアフリー、なぜ進まない? 無事にエッフェル塔に到着し、近くのカフェで一息つきながらマイユさんに改めて話を聞いた。パリでの五輪開催は3度目だが、パラリンピックは初めてだ。マイユさんは「自国開催は誇り」としつつ、「バリアフリー化に関してはレガシーがほとんどない」と残念がる。 改善が進まないのはなぜなのか。パリを含むイルドフランス圏の交通当局によると、パリの地下には水道管やガス管が張り巡らされている。路線によってはバリアフリー工事に耐えきれず崩壊する危険性がある。そのため「地下鉄を完全にバリアフリーにするのは不可能」(当局幹部)なのだという。 この説明に当事者らは反発する。マイユさんと同じAPFフランスハンディキャップのニコラ・メリーユ評議員は「パリより古く、深く走っているロンドンの地下鉄は(2012年の)五輪・パラリンピックを機に改善された」と指摘。進まない原因を「政治的意志の欠如」と批判する。