Rex Orange Countyが語る「生身の自分をさらけ出した」大作アルバムの真意
日本家屋と庭園が意味するもの
―アルバムを締め括る「Finally」は制作プロセスの終わりに書かれた曲なんでしょうか? 結論として書いたとしか思えない曲ですし、殊にアウトロで長い間鳴らされるピアノの音は、終止符のように聞こえます。 アレックス:その通りだよ。いつもはたくさん曲をレコーディングしてから、流れを考えつつ収録順を決めていたけど、今回は違った。「Alexander」を書いたことで僕は「この曲を出発点にアルバムを作ろう」と決意し、去年の11月くらいにフィナーレとして「Finally」を綴ったんだ。アレンジについては、アルバムが終わるんだというフィーリングを醸したくて、ふーっと長く深く息を吐くようなイメージが頭にあった。緊張が解ける瞬間というか。で、アウトロのピアノはザ・ビートルズの「A Day in the Life」のエンディングをそのまま拝借してる。今回アビー・ロード・スタジオでストリングスを録音したんだけど、それも彼らを意識してのことだよ。僕にとってザ・ビートルズは史上最高のバンドであって、彼らに敬意を表したかったんだ。未知の表現を果敢に探索し、音楽を通じて世界を変えたバンドとして。そして僕自身もこのアルバムで、彼らに倣って可能な限り音楽的に冒険したつもりだよ。 ―そんな本作はアーティストとしてのあなたの現在地について何を語っていると思いますか? アレックス:まず、僕が進化したことを語っていると思う。もうデビュー当時のティーンエイジャーだった頃とは違って、今でも昔の曲をライブでプレイしてはいるけど、以前とは異なる場所にいるんだと。と同時に願わくば、僕が息の長い活動を望んでいることが伝わるとうれしいな。これからもたくさんの音楽を世に送り出したい。色んなサウンドの作品を作りたい。年をとっても音楽をプレイし続けていたい。少なくとも10枚はアルバムを作りたいね。すでに5枚作っているからあと5枚か……いや、もちろん5枚に限定しないけど、とにかく今も僕は進化し続けていて、まだまだどこにも行かないよ! ―アートワークについても教えて下さい。ある意味で無味乾燥なファイルが写っていますね。 アレックス:手掛けたのは、過去のアルバムと同じブラウリオ・アマードというグラフィック・デザイナーで、彼が数曲を聞いてから提案してくれたんだ。というのも、これらの曲を聞いていると、まるで僕の心のファイルの中身に耳を傾けているような気分になると思うんだ。そこには、僕がどういう人間で、どんな嗜好の持ち主で、何を感じているのかが記録されている。しかも、いかにも病院にありそうなファイルだから、「Alexander」で登場する医師に関連付けることも可能だし、僕が好きなアルバム・ジャケットには無地に近いものが幾つかあるんだ。ザ・ビートルズの『The Beatles』だったり、カニエ・ウェストの『Yesus』だったり、「全ては音楽が語っているからアルバムの内容について一切説明する必要はない」と訴えているように感じるんだよね。それに、僕はこれまで全てのジャケットに自分の顔が映っていることを忘れていて、ある日ふと、「うわあ、これってヘンだよな、自分の顔がアルバムの象徴ってどういうこと? 主役は音楽なのに!」と思った。場合によってはシンプルな表現が一番しっくりくるんだ。 その一方で、日本家屋の中で僕が寝そべっている写真を使った、別バージョンのジャケットもある。そっちはまさに「Finally」の世界をビジュアル化していて、ようやく自分と折り合いをつけて、穏やかな気持ちを取り戻している僕の姿なんだ。四六時中携帯電話に張り付いているような時代だけに、みんなにスローダウンしようよって呼びかけているところもあるんだけどね。 ―この日本家屋と庭園は「The Table」及び「Finally」のMVにも登場しますよね。どこで見つけたんですか? アレックス:実はロサンゼルスにあって、MVを監督したニック・ウォーカーが見つけたんだ。年配の日本人カップルが所有していて、イベントとかに貸し出しているらしいけど、建物が醸す静けさが、僕らが抱いていたビジュアルのアイデアに合致した。「Sliding Dooris(=障子やふすまを指す)」という曲も、ああいう日本式の家をイメージして書いたんだよ。 ―間もなくツアーも始まりますが、今回は、大き過ぎないシアター規模の会場に限定して、一カ所で連続公演を行なう、今までにない趣向のライブ・パフォーマンスを行なうそうですね。 アレックス:うん。これまでのキャリアを網羅して、1本のストーリーを伝えるショウを考えているんだ。見せ方も演奏も新しいアプローチを試みていて、視覚的・音楽的にすごく冒険している。舞台セットはかなりシアトリカルだし、音楽が主役であることは間違いないけど、コンサートとシアターをミックスしたような部分もある。何しろ『The Alexander Technique』はライブで再現するのが容易じゃないアルバムだから、6月からずっとリハーサルにかかりきりだったんだけど、腕利き揃いのバンドがいるし、いいショウになると思うよ。
Hiroko Shintani