Rex Orange Countyが語る「生身の自分をさらけ出した」大作アルバムの真意
フォーキーな軽やかさ、ジェイムス・ブレイクとの共演
―他方で、このアルバムは歌詞の面のみならず、音楽的にも従来の作品とは一線を画していますよね。通常のポップソング的な構成に縛られず、カテゴライズ不能で、一切妥協無しに自由に音を鳴らし、ストリングス隊やホーン隊など多数のミュージシャンを惜しまずに必要なところに配置していて。 アレックス:そう言ってもらえるとすごくうれしいよ。まさに、単一ジャンルの枠に収まらないアルバムを作るのが僕の狙いで、歌詞より曲が先行していた。コードとかプロダクションのアイデアが先にあったんだ。そこが従来のアルバムとの大きな違いでもあって、何を歌っているのかよく分からなくても、サウンドから何らかのフィーリングが伝われば、目標を達成したことになるというか。とにかく美しくて情緒的な音楽を作り上げて、とことん日記的な、可能な限り率直で何も包み隠さない歌詞を綴りたかった。あと、このアルバムを作りながら、ジョニ・ミッチェルからスフィアン・スティーヴンスやモーゼス・サムニーに至るまで、フォーク寄りの音楽をたくさん聞いていたんだよね。アコギを多用している理由はそこにある。僕の場合、その時々にハマっている音楽の影響が素直に表れるんだ。 ―なるほど。フォーキーなサウンドの軽やかさが、歌詞の重さを軽減しているかのようなところもありますよね。 アレックス:そうだね。さっきも言ったように僕はサウンドに美しさを求めていて、あらゆる構成要素を意図的に選んでいた。中には偶発的な要素もないわけじゃないけど、例えばコードのひとつひとつに確固とした役割や目的があって、それぞれの曲のしかるべきポジションに配置されていて、単なる思い付きだったという要素は一切ない。それに、フォーク・ミュージックを聞いていると、歌詞がどうしようもなく悲しいのに、耳に触れる感覚は実に軽やかでソフトだったりすることが少なくないよね。まず音の美しさに惹きつけられて、がっちり心を捉えられて、あとになってものすごくダークな歌詞の内容に気付かされたりする。そういうバランスの妙があるから、僕も同じことをやっていたんだと思う。 ―となると、セルフ・プロデュースでしか作れなかったアルバムですね。 アレックス:うん。とは言っても実際には、ジム・リード(注:彼のバンドの最古参メンバー)とテオ・ハルム(注:ロサリアやオマー・アポロの作品を手掛けたアメリカ人プロデューサー)というふたりの親友と作り上げたんだ。ジムは10年前から、テオは7年前からの付き合いで、過去に彼らと個別にコラボしたことはあるんだけど、3人での共作は初めてだった。こういうアルバムを作るには、リラックスできる相手じゃないと難しい。何かアイデアを試して、失敗してしまったとしても、親しい人の前なら恥ずかしくないし、彼らと長い時間をスタジオで過ごして、実験を重ねた末に出来上がったアルバムだよ。役割分担についても明確な線引きはなかった。歌詞は僕が全て書いたけど、プロダクションも楽器の演奏も全員が関わって、あとでさらに数多くのミュージシャンを招いて肉付けしていったんだ。そういう意味で、非常にコラボレーティブなプロセスだったね。 ―プロデューサーとして、過去にあなたが起用したベン・バプティやベニー・シングスから学んだことも役立ったのでは? アレックス:そうだね。ベンはサウンドを構築する能力に長けた人だから、彼とのコラボを通じて音を聞き分ける力が身に付いた気がするし、ベニーは僕に、肩の力を抜くように促してくれたんだよね。人間としてもミュージシャンとしても、もっと自由になっていい、細かいことを気に病む必要はないんだと教えてくれた。僕にはすごく完璧主義的なところがあったんだけど、それがマイナスに働くこともあると彼は気付かせてくれたよ。 ―あまりにも悲しいブレイクアップ・ソング「Look Me In The Eye」では、ジェイムス・ブレイクとデュエットしています。あなたとジェイムスの共通項と言うとやはり、自分の脆さをさらけ出すことを恐れないところだと思うんですが、以前から親しかったんですか? アレックス:すごく仲が良かったというわけではなくて、あの曲を一緒に書くまでに2~3回会ったくらいなんだけど、僕はジェイムスの長年の大ファンだった。特に、ピアノを弾きながら歌う時の彼が大好きでね。それに英国人アーティストとしては非常に興味深いコラボ歴の持ち主で、すごく幅広い人たちの作品に関わっている。コラボレーターとして本当に有能な人だし、自分を抑制するってことが一切ない。何か思いつくとすぐに大声で歌って聞かせてくれるんだ(笑)。