子どもたちに感動と体験の環境教育を 里山で孫と歩む震災からの再建 能登の「ケロンの小さな村」
上乗さんが「ケロン村」を開村したきっかけは、県教育委員会の教職員課長をしていたころに、ドイツ南部のバイエルン州にある小さな村、メルディンゲンを視察したことです。環境先進都市として知られるフライブルク近郊にあるメルディンゲンでは、様々な環境教育が行われていました。 児童数50人ほどの小さな小学校では、児童が先生と一緒になって、川岸に雑木を植林し、コンクリート護岸に頼らない小川づくりを行っていたほか、ミミズを「カーロ」と名づけて玄関の水槽で飼育し、弁当の残飯や教室のゴミを与え、カーロが食べたものはエサ、残したものはゴミという、体験的な学習を行っていました。これが、学校だけでなく、地域のゴミの量を劇的に減らしたという事実を知り、衝撃を受けました。 「教室にゴミ箱が無いのです。ミミズのカーロの水槽に銀紙を入れると、食べない。銀紙やセロハンは食べないから、弁当に入れて持って行かなくなる。親はそれで包まなくなり、紙に変えるのです。村のお店でラップや、銀紙が売れなくなり、やがて村から消える。ゴミ焼却所の計画もありましたが、親が『我々はゴミを出さないからいらない』と反対運動があって、廃止になりました。ゴミがたくさん出ることを前提に造るわけですからね。つまり、子どもたちの行動が、親を動かし、村を動かし、やがて行政を動かし、焼却場の建設がなくなった。下からの環境教育が社会を変えたのです」 上乗さんは「小さな取り組みも長く継続すれば、大きな社会貢献になる」と確信したといいます。 「大事なことは、知識だけではなく、感動と体験こそが、最善の教育方法であるということ。一人ひとりに体験して感動してもらうことが一番の教育方法だと、そこの校長が教えてくれました。何がゴミであるかを教えなくてもいい。子どもたちは自分の頭で判断するのだと、感銘を受けました」 すぐに実践しようと考えた上乗さんでしたが、現実には様々な壁がありました。 「過去、日本の教育は短期間に全部教えて、いずれは開花するだろうという考えでした。以前は成功したのかもしれないけれど、今は個性が大事な時代。石川県でも感動と体験ができる場所をつくりたいと思いました。しかし、現場に戻ったら、そうもいかなかった。感動や体験に基づいたカリキュラムに、人や予算は出せないというのが現実でした。だから、現役時代にはできなかった」