妻を失い、舌癌を患って…50年以上、毎日「野外排泄」している男性の「波乱に満ちた半生」
「21世紀に入ってからトイレを使用した排泄は17回」
伊沢氏の人生に訪れた波乱は離婚ばかりではない。異変が起きたのは2015年のことだった。 「前年の秋から舌が痛くて、『口内炎でもできたかな』と思っていました。しかし、なかなか治らず、ある朝目が覚めると、枕が血で真っ赤に染まっていた。食べるのも話すのも困難になり、病院で診てもらったら、舌ガンのステージ3でした」 すぐにガンの治療方針について医師から説明を受けた伊沢氏。そこで、野糞の啓蒙活動と自分の命とを天秤にかける選択を迫られることになる。 「ガンの大きさが4センチあったので、お医者さんには『舌を半分切除する』と言われました。しかし、その頃私が最も大切にしていたのが講演会で野糞から生まれた糞土思想を伝える事だった。喋れなくなるのは致命的なので、手術は拒否しました」 家族ばかりでなく、自身の命までも賭す覚悟だったのだ。ところが、そんな伊沢氏の命を救った癌の治療法があった。 「その直後、放射線の出る針を患部に直接刺す『小線源治療』という、舌を切らなくて済む治療法があることを知ったのです。ただ、この方法が使えるのはステージ2までのガンなので、放射線や抗がん剤の治療でステージ2まで落としてから実施することになりました」 小線源治療のため、伊沢氏は9日間の入院を余儀なくされた。必然的にライフスタイルを変えなければいけない状況になったわけである。 「できる限りトイレでうんこをしないようにしてきましたが、この期間だけはどうにもならず、6回しました。これも含めて、この24年間でトイレを使用した排泄は17回だけです」
うんこから「しあわせな死」を考える日々
舌ガンの治療からすでに10年近く経過しているが、現在も口内炎のような痛みが続き、辛いものが食べられないだけでなく、最近歯がボロボロになり食べること自体が大変になった不自由さを抱えながら生きている伊沢氏。74歳という年齢もあり、今では死についての考えを巡らせる機会も増えてきたという。 「自分のことだけを考えていると、死ねば全て終わりになります。しかし、自分を命の循環の中にいる一員と考えれば、自分の死体が他の命の糧になるわけです。そこに、『しあわせな死』というのもあると思って、探求しているところです。野糞をしながら、今はそんなことを考えています」 離婚に癌と、人生の壁をいくつも乗り越えてきながらも、取材中は終始明るい様子だった伊沢氏。この幸福な雰囲気は、信念を貫いた生き方をしているからなのかもしれない。 後編記事『スズメバチに襲われ、サルに石を投げられたことも…50年以上「野外排泄」をして暮らす男性が驚いた「衝撃の瞬間」』では、50年にわたる野糞生活で遭遇した、様々なハプニングを紹介しよう。
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