妻を失い、舌癌を患って…50年以上、毎日「野外排泄」している男性の「波乱に満ちた半生」
田舎はもちろん都会でも「野糞」
どれだけの強い思いがあっても、現代社会ではどこでも野外で排泄行為ができるわけではない。ロケーション選択はどのように行っているのだろう。 「私は茨城の田舎に住んでいるので、普段は困りません。だいたい近所にある林で地面に穴を掘ってそこにしていますし、自宅の庭も広いので緊急時などはそこでもできます」 しかし、いくら普段の生活圏では困らないとはいえ、野糞を通した考え方や自然哲学を伝える活動をしている事情から、都会や土地勘のない場所に出かけることも多いはずだ。 「本作り(出版)での打ち合わせや講演会などで都心に出て来た時も、なんとか場所を見つけています。都会でも、公園の植栽の影など、できる場所は意外とありますよ。もちろん、ティッシュではなく、きちんと土に還っていく落ち葉をストックしておき、それを使っています。毛の生えている葉が結構沢山あるのですが、紙以上に柔らかくてとても気持ちいいですよ。これを知ってしまうと、紙なんかでは拭きたくないですね」 本人はそう語るが、そもそも野糞は犯罪になる。その点についてはどう向き合っているのか。 「軽犯罪法に野糞は含まれます。ところが、『街路又は公園その他公衆の集合する場所で、たんつばを吐き、又は大小便をし、若しくはこれをさせた者』とある。まず、公衆の集合する場所とされているので、私が普段している林や山の中は含まれませんね。それに軽犯罪法は、高くても罰金9,999円までしか取られません。そのくらいのマナー違反を罰する軽い法ならば、食べて奪った命を地球に還して循環させることのほうがはるかに大事。私はそう信じて活動しています」
家族と信念のどちらを選ぶのか?
実は伊沢氏は51歳で結婚し、約10年間妻と共に生活をしていた過去を持つ。結婚当初、風変わりなライフスタイルを送る彼に対して、相手は何も言わなかったのだろうか? 「元妻と出会った時には私はすでに毎日野糞をしていましたし、彼女も自然関係の仕事をしていたので、私のライフスタイルに特に抵抗はなかったようです」 しかし、結婚生活はやがて破綻を迎えることになる。 「私は、野糞をダメだというような”人間社会の良識人”こそ、自然の成り立ちという視点から見れば非常識だと思っています。また、人権派も人間中心主義でしか言及しませんが、その外の自然界で生きている植物や動物に敬意を払うべきです。 そのため、私は良識人や人権派の人たちをよく批判するんです。そこが分かってもらえなかったようで、離婚の大きな原因になりました」 生き方に理解を示してくれても、考え方の相違は根深かったようだ。自身の信念によって妻までも失ってしまったのは驚くばかりである。