国民年金だけでは「老後6000万円問題」になる当然の理由
かつて話題になった“老後資金2000万円不足問題”。老後は夫婦で2000万円の預貯金が必要というものだが、この額は夫が厚生年金受給者、妻は国民年金受給者といった想定だ。それゆえ共に国民年金受給の場合ではとても足りず、単純計算で6000万円ほど必要という計算になってしまうという――。本稿は、結城康博『介護格差』(岩波新書)の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● 独居高齢者(単独世帯)の 約15%が“貯蓄額なし” 2021年現在、65歳以上の者のいる世帯は2580万9000世帯で全世帯の約5割となっている(内閣府『令和5年版高齢社会白書(全体版)』2023年7月)。そして、65歳以上の者のいる世帯数のうち、3世代世帯9.3%、親と未婚の子のみの世帯20.5%、独居高齢者(単独世帯)28.8%、夫婦のみの世帯32.0%だ。 1980年には3世代世帯の割合が約5割であったが、現在では1割にも満たない。そして、老夫婦高齢者世帯であっても、どちらかが亡くなれば独居高齢者となる。 厚労省「令和4年国民生活基礎調査(所得・貯蓄)」から独居高齢者のおおよその貯蓄額がわかる。 興味深いのは約15%が「貯蓄額がない」という点だ。ただし、生活保護受給の条件が、原則、貯蓄がないことであることも考える必要がある。 もちろん、貯蓄がなくとも、年金等の収入のみで暮らしているケースもないわけではないが稀であろう。いっぽう3000万円以上が約10%、2000万~3000万円が約7%となっており2000万円以上の貯蓄を有している独居高齢者が約17%となっている。 このことから貯蓄額だけにおいても「格差」が生じている。当然、介護が必要となれば貯蓄額によって状況は異なる。
● 未婚の子と暮らしていれば 子の収入もアテにできる? 核家族世帯における高齢者世帯の貯蓄額は、多少、独居高齢者とは異なる。この調査における核家族世帯とは、「夫婦のみの世帯」「夫婦と未婚の子のみの世帯」「ひとり親と未婚の子のみの世帯」を意味する。つまり、老夫婦世帯や結婚しない娘や息子と同居している高齢者が該当する。 かつて「パラサイト・シングル」という言葉が流行った。しかし、パラサイト・シングルとして年齢を重ねて娘や息子が50代となると親の介護を考えなくてはならない。20代、30代は親と同居することで生活水準を高めていくことができた。そして、このような若者の一部が、結婚せずに気がついたら親の介護に直面するといったことになる。 ただし、当然、世帯員が2人もしくは3人となるから貯蓄額も独居の場合より多くなる。核家族世帯となると「貯蓄がない」は約9%となっているが、3000万円以上の貯蓄が約16%、2000万円以上では約26%となる。特に、未婚の子と暮らしていれば娘や息子の収入も想定できることも大きい。 孫と同居する3世代世帯は、核家族世帯の実態とさほど変わりはない。未成年と同居している高齢者も一定数いるが、娘や息子が現役世代であればそれなりの収入が見込める。 貯金額3000万円層の3世代のほうがやや少ないぐらいだ。孫が高校生、大学生といった3世代家族も少なくないと考えられるため、高額貯金額層が若干少なくなるのであろう。