メガサプライヤーの時代(下) 進む水平分業化 自動車開発は新しい時代に
それではサプライヤーは美味しくない。そこでアンチロックブレーキに新技術を付加して差別化する。例えば、右コーナーでアンダーステアが出て車線を飛び出しそうになった時、右後輪のブレーキを単独で効かせてクルマを右に向かせるような車両安定化ブレーキシステムに進化する。 技術は常に進化するから、これもやがてコモディティ化の憂き目に遭う。そこで今度はステアリングもアシストして制御することにして再び差別化を図る。こういういたちごっこの流れの先に、現在の様なサプライヤーが技術的イニシャチブを部分的とはいえ、持つ状況ができたのだ。 いたちごっこによるシステムの肥大化は、開発資金の高騰を招き、結果サプライヤーは資本規模を要求されるので、最先端のシステムを作れるサプライヤーが厳選されてくる。そうやって生き残ったのが、ドイツのボッシュ、日本のデンソー、ドイツのコンチネンタル、同じくドイツのシェフラー、アメリカのデルファイとビステオン、カナダのマグナ・インターナショナルという7社のメガサプライヤーである。
目覚めた日本の自動車メーカー
自動車産業全体がかつての「垂直統合」から「水平分業」へと大きく変貌しつつある。すでに欧州は水平分業化が進んでおり、日本は今まさにその途上にある。ディーゼルエンジンの開発で欧州のメガサプライヤーと接点を持ったことで「世界のことを知らなかった」と痛感した日本のメーカーは、急きょ組織作りを始め、2014年に自動車用内燃機関技術研究組合(AICE)を発足させた。 自動車メーカーには各社の軸になるコア技術があることはもちろんだが、一方で各社の共通課題も多数存在する。それらを分散したまま各社がコストと時間を費やすのはあまりに無駄だ。そのためAICEをインターフェイスにして「共通課題」を共有し、大学や研究機関などの協力を得て技術のスタンダード化を狙おうと考えたわけだ。それによって各社は自社のコア技術にリソースを集中することができ、協力体制を築くことがむしろ各社の個性を伸ばすことに結びつくのだ。 AICEの設立発表会で使われたスライドには、欧州と日本の現状を分かりやすく例えたイラストがあった。課題という山を越えるに際して、欧州のメーカーは分担してトンネル工事を始めた。一方で日本のメーカーは、各社が独自に専用道を切り拓き別々に山越えを図った。その結果トンネル開通後は、EUが圧倒的に有利になった。近道ができただけでなく、分業の試行錯誤の過程で効率化の手法そのものを学び取ったからである。