メガサプライヤーの時代(下) 進む水平分業化 自動車開発は新しい時代に
かつて自動車メーカーから図面を支給されて、下請けとしていかに安く歩留まり良く部品を作るかだけを求められていた部品メーカー(サプライヤー)が、どのようにして技術提案型のビジネスを構築してきたかを前編に書いた。 【図表】(上)自動車メーカーは部品を組み立てているだけ? iPhoneやMacで有名なアップル社は、商品を企画し、販売もするがそれを生産する工場は持たない。数々のサプライヤーに外注し、それを外注で組み立てさせる。メーカーでありながら工場を持たない「ファブレス化」である。モノ作りの現場にはもはや利益が期待できない。企業に利益をもたらすのは商品企画と販売だという冷徹な事実がある。 「そんなのデジタル産業だけの話だ」という反論はあるかも知れないが、現実にトヨタは新型車の発表会などで何度も「スマイルカーブ」の説明をしている。スマイルマークの口の形のように、時間軸で見た時の両サイド、つまり商品企画と販売では厚い利益が期待できるが、真ん中の生産行程は下にぐっと下がって利益を産まない。 少なくともトヨタは、それを対外的にアナウンスする程度には生産工程の先行きを悲観しており、「商品企画と販売に力を入れて利益率を上げていきます」という戦略を伝えているわけだ。トヨタに「自動車ビジネスをわかっていない」と言える人はそうそういないだろう。
サプライヤーの戦略
しかし、たとえ利益率が薄くとも巨大自動車メーカー数社分をまとめれば絶対額としての利益は残る。1990年代の半ばから、そうした数の論理でサプライヤーは地位を築いた。そして2000年代に入ると、次なる戦略として独自の技術開発を行って技術的イニシャチブの一部を握ろうとしたわけだ。 例えば、アンチロックブレーキについて考えてみよう。アンチロックブレーキの基本的な成り立ちは、ホイールの回転速度を測るセンサーがあり、収集したデータを演算するプロセッサーがある。プロセッサーは油圧コントロールバルブを制御して、ロックしそうなブレーキの油圧を緩め、グリップが回復したら再度油圧を高める。 制動時のタイヤのスリップ率は約20%が最適であることはどのクルマでも一緒なので、センサーやプロセッサー、油圧コントロールバルブはどこのメーカーに納品するにしてもほぼ同じ仕様で問題ない。あとは車両の重量バランスなどを考慮して制御ソフトをローカライズすればOKだから、前述の数の論理で押していかれるわけだ。 量産化が図れるので、自動車メーカー1社が開発するより、サプライヤーからシステムで買った方が安くなる。しかしアンチロックブレーキの様なシステムはすでに特許で保護されている部分は多くない上、技術的にも難しくない。いわゆるコモディティ化してしまっているのだ。そうなればどこのサプライヤーでも作れるようになり、価格の叩きあいが始まる。