「V2G」がいよいよ実用化へ。仏ルノーが仕掛けるEV技術競争の新フェイズに注目
欧州は「V2G」による電力供給安定化に期待
EV/PHEVを蓄電池と見なして、充電だけでなく時には系統電力網に電気を供給する「V2G(Vechle to Grid)」。その実用化に向けては、技術領域に加え法整備ほか国や地域によってさまざまなハードルがあるが、それを乗り越え本格的な市場導入を開始するのが仏ルノーだ。同グループの「モビライズ(Mobilize)」は、V2G対応のEV/PHEV用充電器の生産を開始し、間もなく始まるジュネーブモーターショーで公開される新型ルノーサンクE-TECHが、その適合車の第一弾となる。(タイトル写真はイメージ) 【写真】新型ルノー5と「V2G」をわかりやすい図解で見る 世界中の自動車メーカーや電力会社、そして政府を巻き込んでいる次世代スマートグリッドのひとつ「V2G」が、いよいよ本当の意味での実用段階に入りそうだ。 フランスのルノーは、2021年4月に設立した電力サービス会社「Mobilize(モビライズ)」が提供するモビライズパワーボックス(双方向充電ステーション)とモビライズV2Gサービスを組み合わせ、新型ルノーサンクE-TECHを蓄電池に見立てたV2Gビジネスを開始する。EVは移動の手段から電力供給網の一部に組み入れられることになる。 ちなみに、デンマーク、イギリス、ドイツ、スウェーデンほか欧州各国、そして北米西海岸でも実証実験が盛んだが、自家用EVから系統電力網に電力を供給するV2Gの商用運転段階にはまだ至っていない。 V2Gの大義は、再エネ時代の電力安定化とカーボンニュートラルの実現だ。もっともユーザー目線でいえば、充電にかかる電気代を節約するとともに、グリッドと呼ばれる系統電力網にEVに貯めた電力を販売することで全体的な電気代を削減することが可能になるのがメリットだ。この新たなサービスは、新型ルノーサンクE-TECHの納車が始まる2024年後半にフランスとドイツで始まり、2025年には英国で開始される予定だという。
EVシフトが進む国は次のステップの「V2G」へ
日本とは電力事情が異なるので単純な比較はできないが、資源に乏しく自然災害が多い日本ではすでに非常用電源としても「V2G」の重要性は十分に認識されており、政府/関係省庁でも議論が進んでいるのは事実だ。 一方で、V2G実現の大前提となるのが、現在の大規模な電力会社による電力網から、地域に根差した分散型電力システムへの移行である。さらに、その管理/運営には高度なIT技術が求められ、発電/送電網のデジタル化が欠かせない。 また電力会社、運営会社、充電設備会社、そしてEVオーナーなどさまざまなステークホルダーの利害調整も絡んでくる。セキュリティも含め法整備も必要だ。もちろん、事業者の収益確保も重要だ(ちなみにモビライズは2027年度に2桁の利益率を達成するのが目標だという)。 つまり、現状、日本でのV2Gは課題が山積したままだ。トヨタ、ホンダ、日産、三菱などが実証実験を重ねてはいるものの、肝心のEV普及率の低さや充電インフラの充実度なども考え併せると、その実現にはまだかなり時間がかかりそうだ。日本独自の充電規格である「CHAdeMO」はV2Hだけでなく、V2Gプロトコルにも対応しているはずなので、そのポテンシャルが十分に生かされていないのはもったいない。 ちなみにEU圏では、2024年6月までにV2G技術採用の進捗状況報告と評価を加盟国のEV生産/販売メーカーおよび充電設備会社に義務付けている。すでに、フォルクスワーゲングループ、メルセデス・ベンツ、ボルボ/ポールスターなど多くの自動車メーカーがV2G対応車を発売、もしくは近日中に発表予定だ。