創業20年、プーケットの「トリサラ」が今も優れたリゾートである理由
プロジェクト全体のメッセージを発信
プロジェクト名は、トリバナンダ。230エーカーの敷地内にはホテル、レジデンス、スパやウェルネス施設、コミュニティセンターが誕生し、一つの村のようになる予定だ。プルと共有する自家農園、卵のためのアヒルや鶏が放し飼いになっている野原や池に囲まれた自然の中で、宿泊者や居住者がゆったりと過ごすことができる。 2026年のオープンを前に、このプロジェクトに先鞭をつける形でオープンしたのが日本の「侘び寂び」をテーマにしたエレガントかつサステナブルな農園レストラン、「ジャンパ」。隣には販売中のレジデンスのショールームがある。ジャンパに訪れる客層はレジデンスの購買ターゲットと重なり、実際に食事の前後にショールームを見て回る食事客が多く、相乗効果はすでに生まれているという。 シェフを務めるのは、オーフォストシェフ同様に農業国オランダ出身のリック・ディンゲンシェフ。 オランダのミシュラン3つ星で有機野菜が主役のレストラン「デカス」のスーシェフを経て、今年の「アジアのベストレストラン50」でサステナブルレストランに選ばれた、同じく自家農園を持つ「ハオマ」のヘッドシェフを務めた人物で、ジャンパのコンセプトにぴったりの逸材だ。 プルのような驚きや意外性というよりも、ディンゲンシェフは自家栽培のマッシュルームのタルトや薪焼きで香ばしい香りをつけた仔牛に焼いたキャベツを添えたものなど、良い食材を誰もが好きな味と美しいプレゼンテーションに落とし込むスタイルをとる。コースだけではなくアラカルトでも注文できるため、家族連れなどのグループで大きなテーブルを囲む姿も見られる。 使うのはプル同様、農園の野菜が主役で、多くの火入れを木と炭で行い、炭も農園の一角で自家製している。レストランは集客のみならず、「サステナブル」というこのプロジェクト全体のメッセージを発信するブランディングの一環でもあり、このエリア全体の注目をオープン前から高める狙いがある。 トリバナンダがオープンした後、現在のジャンパの場所は宿泊者・居住者用のオールデイダイニングになる予定で、ジャンパは別の場所に移転することになる。プルという成功事例があるだけに、チームのモチベーションも高く、これからはミシュランの「赤い星」も狙っていきたいという。 一つの部門だった「レストラン」を育てて独立させ、多角経営の一つの柱としていく。ただ美食に力を入れるだけでなく、レストランを「生き物として成長する」有機的な存在として捉えているのが、トリサラが20年間トップを走り続けている秘訣かもしれない。
仲山 今日子