試合増・負担増も…「ボールは1つ」即決定機の強豪対決 「パズル」の先にある攻防【コラム】
バイエルン対PSG、個の能力と優位性に依拠した対決が見せたもの
なるほど、こうなるのかと思った。UEFAチャンピオンズリーグ(CL)第5節、バイエルン・ミュンヘン対パリ・サンジェルマン(PSG)の強豪対決である。 【動画】「なんて美しい」「センスしかない」 PSG、“エッフェル塔”新ユニフォームデザイン パリSGのルイス・エンリケ監督は試合前にこう話していたそうだ。 「互いによく似ている。しかしボールは1つだけだ」 バイエルンとPSGは、それぞれのリーグで長く1強の立場にいる。バイエルンは昨季レバークーゼンに後れを取ったが、財政規模と戦力の優位は変わらず、今季は首位を走っている。ボールを保持して攻め、敵陣から激しくプレスをかけていく戦術はどちらも同じ。 ルイス・エンリケ監督の「ボールは1つだけ」は、ボールを持てないほうは苦労するだろうという意味だと思うが、前半はどちらもボールを持ち、持てない試合になっていた。どちらも簡単にボールを失わない。しかし、簡単には前進できない。互いにオールコートのマンツーマンを基調に守備を行っていたからだ。 PSGはマークする相手もほぼ決まっていた。4-2-3-1システムのバイエルンに対し、2人のセンターバック(CB)には、センターフォワード(CF)のデンベレと左ウイングのバルコラがプレス。サイドバック(SB)はザイール=エメリとヌーノ・メンデスがつく。ザイール=エメリは右ウイング、ヌーノ・メンデスは左SBだが、そんなことは関係ない。大雑把に言えば、バイエルンのフィールドプレーヤー10人を10人がマンマークするという方針だった。 従って各所で局地戦になっていた。ビルドアップの可変でマークをずらすことはできない。一方で、1対1を制して、1つのボールを確保できれば即決定機につなげられる。どちらもディフェンスラインは高く、基本的に同数守備になっているからだ。ボールを得た側が前線のアタッカーにつなげば、1人外すだけでシュートを打てる、ラストパスを出せる状況。リスクマネジメントに関しては、どちらもDFの個の強さ以外の補償をしていない。 個の能力と優位性に依拠した、ドイツとフランスの1強同士らしい強気の戦術である。 バイエルンは前半36分にCKからキム・ミンジェがヘディングで押し込んで先制。しかし、試合展開はほぼ互角。どちらも一瞬でチャンスを作れるし、ピンチにもなり得る緊迫した攻防が続いていた。後半11分にデンベレが2枚目のイエローで退場になり、息詰まる攻防はここまで。バイエルンが主導権を握って1-0のまま試合を終えたが、あのまま続いていたらどうなっていたのだろうと思う。 ビルドアップvsプレスにおける、互いに可変しながら優位性を持とうとする「パズル」の先にある試合だった。今回から導入されているリーグフェーズ方式は試合増、負担増という問題点はあるのだが、強豪同士による1つ先の試合をこの段階で見られる魅力も確かにあった。 [著者プロフィール] 西部謙司(にしべ・けんじ)/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。95年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、「サッカー日本代表戦術アナライズ」(カンゼン)、「戦術リストランテ」(ソル・メディア)など著書多数。
西部謙司 / Kenji Nishibe