【中国揺すって実を得ようとするイタリア】メローニ政権の狡猾な対中政策、「一帯一路」脱退から首脳会談への思惑とは
EVをめぐる思惑
イタリアにとって、もっとも中国から引き出したい成果とは、中国EVメーカーによるイタリア現地での完成車工場建設に向けた投資である。実のところイタリア政府は、昨年の「一帯一路」脱退と前後して、比亜迪(BYD)、吉利汽車、東風汽車などの中国自動車産業の大手企業に対し、自国への投資を強く働きかけてきた。 イタリアでは近年、国内での自動車生産が低迷しており、追い打ちをかけるように最大手メーカーのステランティス(旧フィアットと仏PSAの統合会社)は、生産拠点をイタリア国内から新興国にシフトさせる戦略である。このためイタリア政府は自動車産業の雇用確保のため、中国EVメーカーの誘致を目論んできた。 中国製EVをめぐっては、すでにEUと中国の間で経済摩擦の大きな火種となっている。中国製EVの輸出先としてEUは全体の4割を占めており、その中でもイタリアは23年に30万台ものEVを輸入している。一方で、13年に1040億ユーロであったEUの対中貿易赤字は、23年には3970億ユーロに急膨張している。 このためEU側は、対中貿易赤字の是正と域内産業の保護のため、中国製EVを標的にしている。そして欧州委員会は23年10月に、中国製EVへの政府補助金の調査を開始し、24年7月には中国製EVに対する17.4%~37.6%の追加関税措置が導入されるなど、締め付けが強まっていた。 こうした中で中国は、自国EV産業による欧州現地生産を進めざるをえなくなりつつある。これは中国にも3つのメリットがある。
第一には当然ながら、欧州製として追加関税などの制約に悩まされずに済む。第二には、いわゆる中国の「過剰生産問題」への、EUからの批判を和らげる可能性がある。そして第三には、個別のEU加盟国に巨額投資をちらつかせることで、安全保障面のみならず経済面でも対中強硬姿勢に転じ始めたEUに、内部で利害関係を複雑化させ、懐柔や牽制の手段として使える。 まさにメローニ政権は、この中国の思惑を捉え、EU内でも「抜け駆け」することで、露骨にその誘致を狙ってきたのである。