「よかれと思った指導がパワハラに」…弁護士に聞く「パワハラ」と「指導」の境界線とその見極め方
わかりやすい例に、兵庫県知事のパワハラ疑惑があると梅澤氏。百条委員会の中継などには、ハラスメントという言葉が独り歩きしていると感じられる事例も見られたのだとか。 「例えば『車寄せに車をつけなかったことに文句を言われた』とか。車寄せがあるなら『そこに止めて』ぐらいは言うでしょう? ニュース映像では知事がパワーハラスメントをしたことが当然の前提のように扱われており、現代の魔女裁判のようだなと率直に思いました。世間の人が問題とするハラスメントは、法的な意味でのそれよりも道義的意味のほうが強いのかなと感じましたね。 また『ハラスメントについて言及すれば相手を叩き落とせるんだ』という考え方も一層広まってしまったのではと、危惧するところもあります」 被害者の中には、告発すれば加害者にどんな報復をされるかわからないと心配する人もいるようだが、そういう事例を見聞きしたことは一度もないとのこと。 「二次被害というと、被害者側が過剰な対応をするイメージもないとはいえません。例えば会社の対応を録音しておいてSNSにあげてしまったり。昨今このようなことをすると簡単に炎上事案となります。炎上したときの企業のダメージは計り知れません」 ◆誰も幸せにならない「パワハラ訴訟」 パワハラ裁判で被害者が勝ったとしても、被害者側に実害が生じていないケースでは賠償金はせいぜい10~50万円程度であり、多額の補償を受けられるものでもないという。 また、加害者側は企業の秩序を乱す行為をしたということで、当然企業内での懲戒処分というペナルティーは別途与えられる。そして、たとえ和解できたとしても、両者が雪解けに至る可能性は非常に低いとのこと。 「ハラスメントの問題が起きてしまったら、職場での人間関係は壊れ、修復されないのがほとんどです。大きな職場であれば配置を換えたりするのでしょうが、小さな職場の場合は、被害を訴えた側が辞めてしまうことも多いと思います」 ハラスメントに対して過剰に反応する人は、辞めてもまた次の会社で同じような気持ちに陥りそうな気もするが……。 「無論、全部がそうではありませんが、ハラスメントトラブルに巻き込まれる方の中には、思い込みが激しかったり、普通の人よりセンシティブだったり、被害者意識や権利意識が強いという傾向を感じることもあります。 そういう場合、職場を変えてもトラブルに巻き込まれてしまうことはあるかもしれません。あくまで個人の感想ですが」