「生活保護バッシング」から見えた「もれなく救う」と「不正受給を防ぐ」のジレンマ 、生活保護制度の理想と現実
「生活保護バッシング」と法改正(2013年)
自治体における負担感が増大するなかで、生活保護に対する不満は現場でくすぶっていた。不穏な空気のなかで、12年4月、年収数千万円ともいわれる芸能人の母親が、生活保護を利用していることが発覚する。 週刊誌『女性セブン』によれば、かの芸能人は飲み会の席で次のように発言したと言われている。 「いま、オカンが生活保護を受けていて、役所から“息子さんが力を貸してくれませんか?”って連絡があるんやけど、そんなん絶対聞いたらアカン! タダでもらえるなら、もろうとけばいいんや!」 13年の「生活保護」報道の第2の山は、この件をきっかけに広がった「生活保護バッシング」がもたらしたものである。 「普通の人よりも収入があるのに、親の援助をしないのは何事か」という扶養に関する問題はもちろん、「現在の生活保護は不必要な人まで利用させている『甘さ』があるのではないか」「そもそも生活保護費が高すぎるのではないか。庶民はもっと苦しい生活をしているのに」といった声がメディアにあふれた。
この時期の報道に特徴的だったのが、週刊誌やネットメディアからの発信である。第1の山が新聞を中心とした報道であったのとは対照的である。(堀江孝司「新聞報道に見る生活保護への関心――財政問題化と政治問題化」p.49)。テレビも、第1の山がドキュメンタリー番組としての報道が多かったのに対し、第2の山ではワイドショーが積極的に報じた。 この動きは国会にも波及する。12年3月の世耕弘重参議院議員を座長に生活保護に関するプロジェクトチームが発足し、同年9月に行われた自民党の総裁選では複数の候補者が、生活保護の見直しを公約した。安倍晋三元首相もその一人である。 その後の総選挙で自由民主党が民主党を破り、政権に返り咲いたことは周知のとおりである。生活保護の見直しはただちに実施され、生活保護費の引き下げや生活保護法の改正などの対応が行われた(一連の経緯は、拙著『生活保護vs子どもの貧困』に詳しい)。