「生活保護バッシング」から見えた「もれなく救う」と「不正受給を防ぐ」のジレンマ 、生活保護制度の理想と現実
2000年初頭に「ワーキングプア」「ネットカフェ難民」など、豊かであるとされてきた日本に貧困が静かに広がりつつある現実を描いた報道が相次いだ。貧困の再発見の時代である。 【図解】生活保護制度の理想と現実 この動きは、2009年の「年越し派遣村」の報道で頂点を迎える。しかし、その動きは長くは続かなかった。増え続ける生活保護の利用者が問題視されるなかで、新たな「生活保護バッシング」の時代を迎える。
東日本大震災で消えた貧困の報道
24年9月18日に放映されたNHKのクローズアップ現代では、「『助けてと言ったのに…』生活保護でいま何が?」というタイトルで特集が組まれた。番組では、制度を運用する自治体で不適切な対応が相次いでいること、理想と現実の狭間で“運用の限界”を迎えていることが報じられた(NHKクローズアップ現代、2024年9月18日)。 これを受けて、前回の記事「<メディアは生活保護をどう報じてきたか>「利用者」と「公務員」“悪”の対象に揺れた20年間」では、2000年代に日本の貧困が再発見され、対策を求める声が大きくなったことを伝えた。しかし、時代は大きな転換点を迎える。 11年に発生した東日本大震災である。報道は震災一色となり、生活保護という言葉は姿を消した。 そして、東日本大震災の対応が進むなかで、報道に変化がみられる。「これ以上、生活保護の利用者が増えたら国が持たない」という懸念の声が聞かれるようになったのである。
NHKスペシャル「生活保護3兆円の衝撃」
その声をいち早く取り上げたのも、NHKである。 以下は、11年9月に放映されたNHKスペシャル「生活保護3兆円の衝撃」の番組紹介のリード文である。若干長いものだが、当時の社会背景や番組としてのメッセージが端的に示されているので、省略せずに紹介する。 凄まじい勢いで増え続ける生活保護受給者。今年4月末の受給者は、全国で202万人を突破。世帯数で見ると146万世帯を超え、終戦直後の混乱期を上回り過去最多となった。給付額は3兆4千億円に達しようとしている。急増の背景には、リーマン・ショックを受け、2010年春に厚生労働省が65歳以下の現役世代への生活保護支給を認めるよう全国の自治体に促したことがある。 全国一受給者が多い大阪市では、市民の18人に1人が生活保護を受け、今年度計上された生活保護費は2916億円、一般会計の17%近くを占めている。危機感を抱く大阪市は「生活保護行政特別調査プロジェクトチーム」を設置、徹底的な不正受給防止にあたると共に、受給者の就労支援に乗り出している。しかし巨額の生活保護マネーに群がる貧困ビジネスは悪質化、肥大化し、摘発は進まない。また、就労意欲の低い受給者に職業訓練や就職活動を促す有効な手立てがない中で、不況下の再就職は困難を極めている。 東日本大震災の影響で今後受給者が更に増えるとも言われる中、今年5月から、国と地方による生活保護制度の「見直し」に向けた協議が始まっている。番組では非常事態に陥った大阪の生活保護をめぐる現場に密着。「働くことができる人は働く」という日本社会の根幹が日に日に毀損されていく状況をどうすれば止められるのか、そのヒントを探る。(出所:NHKスペシャル「生活保護3兆円の衝撃」) 番組は、大阪市の全面協力のもとで制作されている。平松邦夫大阪市長(当時)も出演し、市政において生活保護が大きな政策課題であることを訴えている。 「『働くことができる人は働く』という日本社会の根幹が日に日に毀損されていく状況をどうすれば止められるのか」という問題提起は、07年のNHKスペシャル「ワーキングプア」とは対極に位置するものである。