「スキャンダルこそ人間の本質」 ――文春と新潮のOBが語る、週刊誌ジャーナリズムの真実
■カネと女性と権力
──「文春砲」では不倫報道が注目されますが、昨年の厚生労働副大臣など政治家も標的になります。不倫以外にも、黒川弘務元検事長の賭けマージャン、菅首相の長男の総務省接待など社会を動かす報道が多いですね。 森「政治、芸能はもちろん、社会に大きなインパクトを与えるのは週刊誌です。なぜか。カネと女性と権力を扱っているから。逆に言うと、女性問題が絡んでいないと、世の中は動かない。検察の特捜部が女性問題をリークしているという説もあるほどです。だから、そこを探すわけですよ」 柳澤「スキャンダルですね。雑誌社はそれでご飯を食べている以上、売れるところにある程度突っ込まなきゃいけない」
森「でも、社会が動くのはリーク一つだけではないですね。例えば、69日間の短命内閣に終わった宇野宗佑首相の場合、『サンデー毎日』の女性問題のスクープで失脚した。ただ、失脚の本質はそれではなく、彼が党内で支持されていなかったことなんです」 柳澤「要するに、『宇野は無能だから』と総理の座からひきずり降ろしたい人がいて、その人が女性スキャンダルをリークする。女性問題で世間の批判を浴びて首相は辞任したけれども、リークした人間の根本的な動機は、あいつは無能だから辞めてもらいたい、と」 森「ええ。それで追い込まれるわけです。結局、私利私欲でしょうね。世の中ってそんなもんですが、週刊誌はそこが主戦場なんです。それは昔から同じ」
──「週刊文春」がこうした報道をできているのはなぜでしょうか。 森「文春が突出して見えるのは、他のメディアがリスクをとらなくなって、取材をしなくなってしまったからでしょう。リークは新聞にもほかの週刊誌にも来ているはずです。けれど、文春がそこから粘り強く取材して、結果を出している。やっぱり努力ですよね」 柳澤「それと、引き受ける度量があるかどうかですよね。黒川元検事長のマージャン問題でも、マージャンに同席した記者に『記事を書かせよう』って言った人は、(社員が黒川氏と一緒に賭けマージャンをしていた)朝日や産経にもいたはず。黒川はマージャンが強かったとか、何でもいいから記者は書くべきだと思います。でも、結局、現場にいた記者(朝日は元記者)の記事は出ませんでした。それは、結局『書け』と命じるだけの器量が新聞社になかった」 森「そこは僕の意見と違っていて、齋藤さんが生きているときの週刊新潮だったら、新聞記者のことは取り上げなかったと思います。マージャンして情報を取ってくる、こんな立派な記者はいないじゃないかと。もちろん黒川には、たぶん何らかの思惑があったんだと思いますよ。だから、あのスクープそのものはいい。だけど、朝日や産経の記者はけしからんというのは、ちょっと違うと思いました」 柳澤「記者が黒川元検事長に食い込んだことは立派です。ただ、何のために食い込むのか。記事を書くためでしょう。週刊文春にスクープされておいて黙っているのはおかしい。とにかく書くべきでしょう。取材の一環でやってるんだから。新谷君も『産経の記者がもしあの一件で会社を辞めたら、うちの記者で採ろうか』と話していました」