国民民主党「103万円の壁」引き上げを阻むのは誰か…税制の議論が自民税調という密室で行われることの”大問題”
「諦め」の若手有権者を動かす
日本の選挙の投票率が低いのは「どうせ投票しても自分たちの意見が反映されるわけではない」といった若年世代の諦めがあるとされる。人口が圧倒的に多い高齢者の投票で決まってしまうため、高齢者に有利な政策が行われる「シルバー民主主義」が今の日本を覆っているというわけだ。だが、今回の衆議院総選挙は、そんな「諦め」に一石を投じる結果になった。 【写真】余命5ヵ月の石破政権が丸呑みさせられる「国民民主党が要求するもの」 今回、国民民主党が選挙前の7議席から28議席に大きく躍進した。野党第1党の立憲民主党(148議席)、第2党の日本維新の会(38議席)に次ぐ野党第3党となり、連立与党の公明党の24議席も上回った。自民党が大敗して191議席にとどまり、無所属議員の会派入りなどでも、与党の過半数が得られない中で、維新や国民民主といった少数野党が議決を左右するキャスティングボートを握る格好になった。維新や国民民主が、自公に協力して賛成票を投じれば法案は通るが、野党と結束して反対に回れば与党案は否決されるわけだ。 国民民主党が議席を3倍増にする原動力になったのが20歳代、30歳代の若手有権者の支持だった。日本テレビの出口調査によると、この年代の投票先は自民党を上回り、国民民主党がトップになっていた。20歳代の投票先は自民党が19%に対して国民民主が26%、30歳代は自民20%に対して国民民主22%だった。他の年代では全て自民党への投票が最も多くなっていたので、20歳代、30歳代の若年層の投票行動が国民民主党を躍進されたのは間違いない。 なぜ国民民主党が若年層に支持されたのか。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を駆使した選挙戦術などが若年層に受けたという見方もあるが、「手取りを増やす」をキャッチフレーズに掲げて「103万円の壁」の引き上げを訴えたことが、この世代に支持されたと見ていい。
若者世代痛感する「壁」
20歳代、30歳代は第2次安倍晋三内閣以来、自民党を支持してきた世代で、自民党、公明党が全ての委員会で委員長を押さえても過半数を取れる絶対多数を維持できたのも、この世代の票を得たことが大きかった。 30歳代は特に、就職氷河期と言われた就職難に直面した世代のすぐ下で見てきた世代で、その後、安倍首相によるアベノミクスで好転した就職率などを高く評価してきたと見られる。働き盛りとして、経済回復を実感してきた世代なわけだ。 岸田前首相は「物価上昇を上回る賃上げ」と言い続けてきたものの、物価の上昇に賃金が追いつかず、こうした働き盛り世代の不満が強まっていたと思われる。 そんな中で、国民民主党が訴えたのが、「手取りを増やす」というキャッチフレーズで、「103万円の壁」という一見地味な税制の1項目に焦点を当てた。 「103万円の壁」は、年間収入が103万円を超えると本人に所得税がかかることから、これを境に手取りの増え方が鈍化するというもの。アルバイトやパートで働く人たちが、課税される103万円を意識してそれ以上働かないという事態が生じているとされる。せっかく時給が上昇しても、税金が取られるようになっては意味がない、というわけだ。若年層にしてみれば、給与上昇は物価上昇でチャラになっているのに、税金だけ増えるのは理不尽だという思いがあるのだろう。 「壁」にはこのほかにも、社会保険料が発生する「106万円の壁」、配偶者の扶養から外れる「130万円の壁」、配偶者特別控除が減額になる「150万円の壁」などがあり、インフレで生活実態はむしろ悪化しているのに、課税や社会保険料付加の最低限が引き上げられない矛盾をこの世代が痛感していると言える。