この時代に「会社」で働くとは? 「ジェンダーギャップよりもジェネレーションギャップに課題」三井住友銀行副頭取工藤禎子さん
最近はまたどこかで会えると思うようにしています。情報交換できるし、実際に会社に戻ってきてくれる人もいます。10年ほど前から(退職者を元の会社で再雇用する)アルムナイ採用を行っています。 それに、われわれも中途採用しています。カルチャーがちがう人が入ってくることで新しい価値を生み出しています。逆に、われわれが育てた人が外でお役に立てれば、それが社会の活力になっていくと思うようになりました。われわれも社会に送り出さないといけないのです。 ただ、そう思えるようになったのは、つい最近ですよ。 ――最後に、若い世代が読んだら人生の糧になるような本をうかがっています。工藤さんのおススメの本を教えてください。 工藤:2冊用意してきました。1冊目は『美味礼讃』(海老沢泰久著/文春文庫)です。辻調理師学校をつくった辻静雄さんについて書かれた本で、大阪読売新聞の記者だった辻さんが、日本でフランス料理を広めていく様子が描かれています。 包丁の使い方を身につけようと毎日魚を30本おろしたり、アドバイスを受けてフランスに渡り、ポール・ボキューズといった一流シェフと縁を結んで日本に招聘したり。頭でっかちにならずに行動し、他人のアドバイスを素直に受け入れ、試しにやってみて、そこから道を切り開いていく。その姿勢に共感するとともに、物語としても楽しく、疲れちゃったときに読むと元気が出る本です。 2冊目は、セネカの『人生の短さについて』。2000年前のローマ帝国の時代を生きた哲学者の本です。この本で私が印象に残っている一説をいくつか紹介しますと…
“時間に向き合えない人の人生は短く、不安に満ちている” “人生は3つの時に分けられる。過去と、現在と、未来だ。これらのうちわれわれが過ごしている現在は短く、過ごすであろう未来は不確かであり、過ごしてきた過去は確かである。過去が確かであるのは、そこには運命の力が及ばず、誰の自由にもできないからだ” (いずれも中澤務訳・光文社古典新訳文庫より) この本では、人生は短くない、短くしているのは「自分」だと書かれています。確かな過去をしっかり振りかえって、学びを得て、今を一生懸命に生きれば、短くはないと。自分が生きられる人生は限られていますから、本を読むということは大事。歴史や物語から、他人の英知を自分のものにすることができるから。 20代30代は先が長いから悩むと思います。私もその年齢の頃は不安でした。人生の選択肢がたくさんあって、時間もあるから。 でも明日のことばかり考えず、いま地に足つけて積み重ねていくことが大事なんだと。今を大事にしないと未来は不確かなままだと、この本から教えてもらった気がします。 〉〉【前編「失敗は私に学びをくれた」3メガバンク初の女性副頭取が振り返る30代の苦しかった債権処理 三井住友銀行工藤禎子さん】を読む くどう・ていこ 1964年生まれ。慶応大経済学部を卒業後、女性総合職の1期生として1987年に住友銀行(現・三井住友銀行)に入行。プロジェクトファイナンスなど海外の大型事業融資に携わり、2014年三井住友銀行初の女性役員に就任。2021 年 3 月 同取締役兼専務執行役員、2024年4月三井住友フィナンシャルグループ取締役執行役副社長グループCOO、三井住友銀行取締役副頭取執行役員。