台本の丸暗記は失敗しやすい...「プレゼンに強い人」がやっている発表の下準備
文章を覚えるのではなく、ポイントを頭に入れておく
いまでこそ台本なしでその場で臨機応変に話せるようになりましたが、以前は話すことをきっちり決めていました。生放送での現場中継は、時間が決められています。 「3分で伝える」というのに、台本なしでのぞむのは不安すぎました。台本といっても、自分でつくった台本です。現地で取材した内容をもとに組み立てを考え、文章にして「ここでこれを話す、次にこれを話す」というのをメモ書きしていたんです。中継しながらメモを見ることはできないので、本番前にそのメモを頭に入れてのぞみます。 ところが、これで大失敗したことがあります。台本の文章を覚えようとしていたため、ハプニングがあったとき、台本が飛んで頭が真っ白になってしまったのです。忘れたくても忘れられません。あれは2005年、竹ノ塚駅踏切事故の現場からの中継でした。 「(歩きながら)東京都足立区の竹の塚の商店街を抜けてすぐにあるこちらの踏切は"開かずの踏切"と言われており……」 カメラワークを意識しながらの、動きのある中継。フィールドリポートがようやく板についてきた頃です。私は事前に考えた文章を順番に喋ることで乗り切っていました。 突然、「バン!」と大きな音がしました。「えっ、何の音だろう?」と気を取られた瞬間、頭の中の台本が消え去りました。次に何を言えばいいのかわからず、しどろもどろです。 スタジオの古舘さんが質問を投げかけつつフォローをしてくれましたが、頭に血が上って、何を言っているのか自分でもわかりませんでした。思い出すだけで冷汗が流れます。あれは何の音だったのでしょうか?結局わからないままでした。 それ以来、私は台本をつくるのをやめました。失敗の原因は、頭で文章を覚えようとしていたことです。当時も、丁寧に取材をして情報を集めていたのですから、ハプニングがあろうと、どんな質問が飛んでこようと伝えることはできたはずなのです。それなのに、台本が消え去ったことでパニックになってしまいました。 そこで、伝えたいポイントだけを覚えるように変えました。たとえば、「地名」「現在の様子」「事件当日の様子」「町の人の声」についてキーワードだけメモして覚えておきます。話す順番は一応決めてありますが、その場で臨機応変に対応します。中継している最中に、想定外の出来事が起きるのも珍しいことではありません。ポイントだけ押さえればいいのであれば、どうにでもなります。 時間を見ながら「これは省略しよう」「この話は半分に縮めよう」と考えて進めることができるのです。スピーチ、講演、プレゼンなどではあまり想定外のことは起こらないかもしれませんが、文章で覚えていると、それを忘れたときのリスクがあります。台本よりも、「伝えたいポイント」のほうを重視して頭に入れておくのがいいでしょう。