3000年前の神官の墓を発見、アンデスで珍しい「スタンプ」も、ペルーのパコパンパ遺跡
アンデス文明に早くから宗教的指導者がいた証拠
2023年夏、ペルー北部で約3000年前の墓が発見された。埋葬されていたのは、アンデス文明の最初期の神官の1人とみられている。インカ帝国の時代よりもはるか昔に生きていた人物だ。 ギャラリー:ジャガーや人の顔の「スタンプ」も、3000年前の神官の墓をペルーで発見 写真6点 墓が発見されたのは「パコパンパ遺跡」。紀元前1200年頃から紀元前700年頃にかけて使われていた約16万平方メートルに及ぶ神殿跡だ。 この約20年、パコパンパ遺跡ではさまざまな考古学的発見があった。今回発見された遺体は、紀元前1000年頃に埋葬されたもの。副葬品から高位の宗教的指導者だったと考えられ、「印章の神官」と名付けられた。 副葬品には、アンデス文明では珍しい印章(スタンプ)が3点含まれている。1つはジャガーをかたどっており、被葬者がジャガーの霊的な力を扱える指導者の立場にあったことを示している。残りの2つはそれぞれ人の顔と手をかたどったもの。人々は印章に顔料を付け、神官の肌や織物に押しつけたのだろうと、考古学者たちは考えている。 「非常に重要な発見です」と話すのは、日本の国立民族学博物館の名誉教授・特定教授で、同館とペルー国立サン・マルコス大学の合同調査団を率いる関雄二氏だ。
その後のアンデス文明につながる発見
今回の発見により、この地域でいつ有力な宗教的指導者の階級が誕生したかの特定が進むとみられる。関氏によると、かつてパコパンパは主要な巡礼地であり、宗教的儀式に参加するために近隣からも遠方からも人々が集まってきたという。「こうした祭祀センターにおける儀礼活動を通じて、アンデス文明初期の社会は統合されていました」と関氏は語る。 この遺跡では既に「パコパンパの貴婦人の墓」(2009年に発見)や「ヘビ・ジャガー神官の墓」(2015年に発見)などが見つかっている。今回の「印章の神官の墓」はそれらより200~300年ほど古いが、この3つの墓には重要なつながりがある。 「印章の神官」よりも新しい時代の宗教的指導者は、墓を通してエリート階級だった祖先たちとの関係を可視化したと関氏は考えている。「これは権力の継承に祖先崇拝を組み込んでいった証拠だと考えられます」 祖先崇拝は、その後アンデス文明圏に誕生するワリ(500年頃~1000年頃)やティワナク(600年頃~1000年頃)といった国の文化、そして最終的にはインカ文明(1200年頃~1533年)にとって非常に重要な意味を持つことになる。 パコパンパ遺跡では今も発掘が続いており、遠からず新たな発見もあるだろう。2022年にも神官の墓と思われるものが出土している。「印章の神官」の墓よりも古いものと考えられるが、詳しい分析は現在も進行中だ。
文=Braden Phillips/訳=三好由美子