「ブラジルのトランプ派」大暴れ、大統領選の不正主張し首都占拠 米議会の襲撃ほうふつ、クーデターの狙いも?…記者が見た「分断」の現場
2日後の1月10日に、ボルソナロ氏は1本の動画を自身のフェイスブックに投稿した。これは昨年10月の大統領選の公正さを否定するような動画や字幕だった。 翌日には削除されたが、当局はこの投稿を問題視し、扇動などの疑いでボルソナロ氏の捜査を開始した。ボルソナロ氏は約3カ月米国に滞在した後に3月30日にブラジルに帰国した。その後もかつての側近から、ルラ氏の就任を阻止しようとしていた試みを暴露する証言が出るなど、不利な状況が続いた。 ボルソナロ氏は4月26日に連邦警察の聴取を受け、動画は個人的に保存して後で見ようと思っていたものを「誤って」投稿したと説明。弁護士は腹痛で1月10日まで入院していたボルソナロ氏にはモルヒネの影響が残っていたとして過失を強調した。 2年前の米議会襲撃事件で、支持者に「議会まで行くぞ」と呼びかけたトランプ氏と異なり、ボルソナロ氏は直接、扇動していない。だが研究機関ジェトゥリオ・バルガス財団のエドゥアルド・グリン教授は、ボルソナロ氏が選挙の敗北を明言せず、ルラ氏の大統領就任式を欠席するなどした行動が、支持者の決起を事実上「承認した」と指摘し「民主的機構を軽視し続け、政治の過激化」を招いた責任は大きいとみる。
▽多数の協力者 今回の襲撃事件は、情報機関が事前に襲撃の情報を把握し、首都の治安当局に報告していた。しかし必要な警備体制が取られていなかった。治安当局の幹部らも休暇を取るなどして不在だった。事件の最中も傍観したり襲撃者を手助けしたりした大統領府の警護担当や治安当局者など、足元に協力者が多数存在したことが分かっている。ボルソナロ氏は軍人出身で、シンパは軍関係者にも多い。 ブラジリアの公安庁トップでボルソナロ氏の「右腕」とされていたアンデルソン・トレス前法相が不作為の容疑などで逮捕された。農業ビジネス関係者や企業家、銃の愛好家ら多岐にわたる層が襲撃者を資金面で支援したとされている。 選挙で不正はあったのか。選挙を総括する高等選挙裁判所や国際監視機関は選挙が正常に行われたとしている。これとは別に結果を調査した国防省も不正は「見つからなかった」と結論づけた。だがその後、現在の選挙システムは「悪意ある」操作によって影響を受ける可能性を排除できないとする報告を付け加えており、これがボルソナロ派の選挙結果への不信感を高めた可能性もある。