ノーベル経済学賞受賞者が警告する「現代版ファシズム」の脅威
2024年12月24日発売の「Forbes JAPAN」2月号では、国内外の賢人たちによる「2025年総予測」を特集。第2次トランプ政権が発足する25年1月以降、世界経済はどうなるのか。また、加速する人口減少のなかで、日本経済はどう変化するのか。今年のノーベル賞受賞者ジェイムズ・A・ロビンソンをはじめ、マルクス・ガブリエル、石黒浩、川邊健太郎、JO1など国内外の研究者・経営者・アーティストなど各界の第一人者にインタビュー。そこから見えてくる未来から、今を生きる私たちにとっての「希望」を描き出す。 ファシズム的トランプ政治は、米国の民主主義と国際秩序への脅威となる──。政治経済学の第一人者が解く、国家権力の暴走を防ぐために必要なこととは。そして、社会の自由を守るための「狭い回廊」を歩み続けるために何をすべきか。 2025年1月20日、新政権が始動する。忠実な閣僚らや共和党による連邦上下院支配、大統領の免責特権など、強大な権力を手にするトランプ次期大統領──。 だが、24年秋にノーベル経済学賞を共同受賞したジェイムズ・A・ロビンソン教授(シカゴ大学公共政策大学院)によれば、市民社会はリヴァイアサンに「足枷(あしかせ)」をはめる必要があるという。リヴァイアサンとは、英哲学者トマス・ホッブズが描いた巨大な国家のことだ。 『自由の命運:国家、社会、そして狭い回廊』(上下巻、共著ダロン・アセモグル、櫻井祐子・訳、早川書房)を著した同教授に、米国と世界の行方について聞いた。 ──コロナ禍やロシア・ウクライナ戦争、イスラエル・パレスチナ戦争など、歴史的な出来事が続くなか、欧州は右傾化し、米国ではトランプ政権が復活します。 ジェイムズ・A・ロビンソン(以下、ロビンソン):ひとつの時代が終わろうとしている。この風潮は1930年代にやや似ている。民主的リベラリズムや自由市場といったレッセフェール(自由放任主義)が大恐慌で崩壊した時代のことだ。当時、ドイツとイタリアではファシズム、ソ連では共産主義、スウェーデンやノルウェーでは、再生リベラリズムともいえる社会民主主義など、異なるモデルが次々と誕生した。 トランプ次期大統領の国家主義的ポピュリズムは「現代版ファシズム」だ。ファシストは他者を責めるが、米国も自国の問題を他者のせいにしている。再分配モデルや社会民主主義の復活が必要だ。 私たちは、政治的、地政学的、経済的に実に不確実な時代にいる。予測は至難の業だが、国際貿易の減速は免れない。大半の国々で保護主義に拍車がかかる。 米国では、政治的エリートに対する不満が高まっている。民主党は、そうした現実から目を背け、労働者層とのつながりを失い、平均的な米国人を代表する問題とは言えない政治問題に執着している。 共和党も労働者層との接点を見失っていた。だが、トランプが登場し、有権者の不満にこたえるかたちで、「MAGA(米国を再び偉大な国にする)」という新政治基盤を立ち上げた。MAGAが意味するものは、米国が世界経済や北大西洋条約機構(NATO)などから離脱し、超大国として担ってきた政治的役割を放棄することだ。 ──通商政策の保護主義化も加速しそうです。トランプ次期大統領は、半導体生産が盛んな台湾にも批判的です。対中貿易の規制は日本経済にも影響を及ぼします。 ロビンソン:世界経済の成長鈍化が予想される。新政権は台湾の政治的脆弱性を理由に、(半導体という)戦略物資の生産の国内回帰を試みるだろう。また、化石燃料増産により、原油など、コモディティ価格が下がる。だが、気候変動を無視した政策は悲惨な状況を招きかねない。 トランプ次期大統領の政策の大半は、米国が抱える真の問題の解決にはつながらない。米国の問題は移民が引き起こしたものではないが、彼は不法移民の強制送還に多大な労力を費やそうとしている。