救急搬送となった男性患者… 息子がその付き添いを拒んだ理由【老親・家族 在宅での看取り方】
【老親・家族 在宅での看取り方】#118 ある日私が訪問診療でご自宅を訪問すると、男性の患者さんが廊下で倒れている姿が目に飛び込んできました。ベッドがある部屋からトイレへと続く廊下です。幸いなことに意識はしっかりしています。 うつ病などの精神疾患でもないのに…急に怒りっぽくなった人に潜む病気 「倒れていたのはいつからですか? ご飯食べましたか?」(私) 「昼ごはんは食べてからでした」(患者) 「それじゃあそんなに長くなさそうですね。トイレに行こうとして倒れて転んで動けなくなった?」(私) 「う~ん」(患者) 「じゃあ倒れたのはさっきですね」(私) 「でも私にしては長かった」(患者) 「そうですね。息苦しいとかありますか?」(私) 「少し……」(患者) サチュレーション(血中の酸素飽和度)の検査を行ったところ、健康な大人で95%前後ある値が83%と比較的低く、酸素を取り込めていない状態。具合も悪そうで、浮腫が強かったこともあり、このままご自宅に置いておくことはできないと判断、ひとまず病院へ救急搬送することにしました。 ついては近くに住む息子さんと娘さんのうちどなたか、ご家族に病院までのサポートをお願いしたいと思い、ようやく連絡がついた息子さんにその旨、伝えたのでした。 しかし息子さんの対応は意外にも、病院には付き添えないというものでした。 後ほど、患者さんの担当ケアマネジャーさんに確認したところ、最近、患者さんは認知症の影響もあり以前に増して気性が激しくなり、ご家族が対応に手を焼いていたとのこと。 家族会議などで意見が合わないようなことがあった場合は、激高し、家のものをひっくり返してしまうようになった。息子さん、娘さんともどうしても患者さんとの関わりを避けるようになり、親子関係が悪くなっていったというのです。 そういえば、と思い出したのが、訪問診療での会話でした。心なしかしょんぼりした様子で、「昨日は家族会議で私が暴れてしまったから血圧が上がって苦しい」と話されていたのでした。 認知症の行動・心理症状(BPSD)の代表的なものの一つに、過度に怒りっぽくなる易怒性があります。これによってご家族との関係が悪化し、病院搬送時の付き添いなど簡単なサポートですら拒否されるようになることは、実は訪問診療の現場では珍しくはありません。 幸い、この患者さんは搬送後は、大事に至らずにすぐ自宅に帰ることができましたが、今後も注意して見守ることが必要であることに変わりはありません。 最近、SNSでこんな投稿を見かけました。「人生で最もつらいことは何?」という問題に対して「自分の両親が老いていくのを見ること」と返したもので、海外でバズっていました。 親に老いや死は必ず訪れるものだと理解しているつもりでいても、いざその現実を目の前にした時、受け入れをちゅうちょすることはよくあります。親の言動は認知症のせいだとわかっていても、拒絶感を抱くこともよくあります。そんな現実に対し、患者さん、ご家族それぞれのベターな答えを探すお手伝いをするのも、在宅医療の務めだと考えるのです。 (下山祐人/あけぼの診療所院長)