<チ。 ―地球の運動について―>タイトルの由来は? 地動説を題材にした理由 作者・魚豊に聞く
「第26回手塚治虫文化賞」のマンガ大賞に選ばれたことも話題の魚豊さんのマンガが原作のテレビアニメ「チ。 ―地球の運動について―」が、NHK総合で10月に放送を開始した。原作は、「週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で2020~22年に連載され、15世紀のヨーロッパを舞台に異端思想の地動説を命懸けで研究する人々を描く異色のマンガとして話題となった。なぜ地動説を題材にしたのか、「チ。」という独特のタイトルの由来、作品に込めた思いを原作者の魚豊さんに聞いた。 【写真特集】話題作「チ。」 タイトルに秘められた意味 壮大な世界観 衝撃の連続 ビジュアルを一挙に
◇知性と暴力を描く 三島由紀夫の影響も
「チ。 ―地球の運動について―」は、飛び級で大学への進学を認められた神童・ラファウが、謎めいた学者フベルトと出会うところから始まる。異端思想に基づく禁忌に触れたため拷問を受け、投獄されていたフベルトが研究していたのは、宇宙に関する衝撃的な“ある仮説”地動説だった……と展開する。
作者の魚豊さんは、1997年、東京都生まれ。2018年に陸上競技の100メートル走を題材とした「ひゃくえむ。」(講談社)で連載デビューした。「ひゃくえむ。」に続く連載2作目として「チ。」を手掛けたのは、「知性と暴力の話を描いてみたい」という思いからだったという。
「『ひゃくえむ。』が青春スポ根だったので、人が死ぬようなスリリングな物語、知性と暴力の話を描いてみたいと思いました。そういうテーマを描けるのが創作の醍醐味、面白さだと思っていたので挑戦してみたいと」
魚豊さんは、高校の倫理の授業をきっかけに哲学に興味を持ち、大学の哲学科に在籍していたこともあり、「ニーチェやカント、18世紀頃のドイツの観念論が好きでした」と語る。学生時代には、三島由紀夫の「三島由紀夫スポーツ論集」にも影響を受けた。
「三島に関しては、その人生に興味を持ちました。作家は、自分で考えたことが世界に影響力を持ってほしいと考える人だと思うんです。それが第一次世界大戦前くらいまでは有効性を持っていたと思うのですが、どんどん思想や信念はなくなり、全部が金銭に交換可能なコモディティー(画一化された商品)になっていった。そんな世界になった時に『この虚しさの中で何書けばいいの?』と乗り切れなかった人なのではないかと。僕はノンポリの人間なんですけど、そうした悲哀は分からなくもないというか。生まれてきた理由、死ぬ理由を見つけたくなってしまうというのは、僕も三島の1000億分の1くらいの作家として、自分事として何かを感じるんです」