「トランプは習近平体制に都合がいい」?! 元北京駐在記者が見る米大統領選 4年前の中国で“再選支持”が沸騰した本当のワケ
習近平政権のピンチ(2) 香港国家安全維持法
2020年5月28日、北京で行われた全人代の最終日に、中国政府は、香港の反政府デモなどを取り締まるため、香港国家安全維持法の導入を決定した。香港では激しい反対運動が起きた。同時に、欧米を中心に国際社会から、中国への強い批判が沸き起こった。 前年の、犯罪容疑者を中国本土に引き渡すことを可能にする「逃亡犯条例」に端を発する、香港全土を熱くした民主化デモが、1年の時を経て再現され、アメリカをはじめ世界中が、中国の人権状況に改めて厳しい目を向けることとなった。 そんな中、アメリカで事件が起きる。同じ5月、ミネソタ州で白人警官が黒人男性ジョージ・フロイドさんを押さえつけ、死亡させた。これを機に、アメリカでは人種差別反対の世論が沸騰する。 中国の国営メディアは、一斉にアメリカ批判を開始する。曰く「アメリカは香港の人権問題を批判するくせに、自国で人権侵害をしているではないか」 国内の人権問題を取り上げて、政府を批判することは一切しない中国メディアだが、アメリカの人種差別への抗議運動については、コロナの死者数の時と同じように、まさに連日、大きく取り上げた。 この頃のトランプ大統領といえば、人種差別への抗議に否定的だと批判された。ニューヨークのトランプタワー前の大通りには、「Black Lives Matter」のペイントが描かれる始末だった。
中国共産党体制は民主主義体制より優れている
習近平政権を揺るがせた、「中国から世界に広がった新型コロナ」と「香港問題で浮き彫りになった人権侵害」の2つの問題を、結果として覆い隠す手助けをしたのが、トランプ大統領のアメリカだったことが分かる。 中国政府による、「中国ではコロナは収まったのに、アメリカでは死者が激増している」とか、「アメリカの人権問題はひどい」といった宣伝は、国民にも浸透した。 あの時期の中国で登場したのは、「体制の優位性」という議論だ。つまり、「中国共産党体制は、アメリカを中心とする民主主義体制よりも優れている」というものだ。 新型コロナを軽視し、また、人種差別への曖昧な米大統領自身の振る舞いが、結果的に中国政府の国内向けの宣伝に利用されることとなった。 中国共産党の幹部たちも、かつては民主主義に憧れを抱き、口には出さないまでも、一党支配体制への疑問を持つ者も少なくなかった。 しかし、トランプ時代のアメリカの混乱は、彼らが本気で、迷うことなく「中国共産党による支配体制は民主主義より優れている」と信じるに至る、大きな助けとなった。
“トランプ大統領”は誕生するか
「川建国」という言葉が流行語となり、SNSでは「トランプがんばれ!」の声があふれた2020年。あれから4年が経ち、また大統領選の投票日がやってきた。 今回もトランプ氏は、「中国製品に60%の関税をかける」などと豪語している。だが、中国側が抱く思いは、決して警戒感だけではない。 トランプ氏は再び、大統領の椅子に手をかけるのか。
テレビ朝日