「トランプは習近平体制に都合がいい」?! 元北京駐在記者が見る米大統領選 4年前の中国で“再選支持”が沸騰した本当のワケ
大統領選が報じられなかった中国
共和党トランプ大統領(当時)と、民主党バイデン前副大統領(当時)が争った2020年。中国では連日、アメリカに関するニュースが報じられていた。しかしそれは、大統領選挙に関するものではなかった。 ひとつは「アメリカのコロナ感染がどれほどひどいか」を、中国はすでに抑え込んだという自負心とともに伝えるもの。 もうひとつは「アメリカの黒人差別への抗議デモがいかに激しいか」を、アメリカでは人権が守られていないというイメージとともに、伝えるものだった。
習近平政権のピンチ(1)新型コロナ
2020年は、まさにコロナ禍での大統領選だった。その年の1月に、湖北省の武漢で新型コロナウイルスが急拡大し、中国政府の無策も相まって、瞬く間に中国各地がウイルスにのみ込まれた。 中国国内では、タブーのはずの政府批判が各地で噴出し、習主席も「至らぬ点があった」と、異例の反省に追い込まれた。 習主席にとって、形勢逆転のチャンスは春にやってきた。3月末、初めてアメリカの感染者数が中国を抜いて世界一になったのだ。 その頃から、中国では国営メディアを中心に、「アメリカで新型コロナの感染が拡大」というニュースが激増する。文字通り毎日、中国メディアはアメリカの感染者数を報じ続けた。マスク着用に否定的なトランプ大統領の、「ウイルスはある日、奇跡のように消える」といった、コロナ軽視の発言とともに。 ちなみに当時の中国では、政府が国民にマスク着用を徹底させていた。マスクなしに外出するなど、考えられないことだった。感染者が出れば、町全体が封鎖され、人々は自宅から一歩も外に出られない、厳戒態勢が敷かれた。 国内の不満をそらし、習近平体制の安定を図るため、政府の宣伝機関であるメディアを利用して、形勢逆転を図ったのは明らかだった。 さらに、マスクやワクチンを各国に配る“マスク外交”や“ワクチン外交”を繰り広げ、「世界が中国を称賛している」との報道も始まる。「世界に先駆けて新型コロナを克服した中国が、世界を救う…」そんなイメージ戦略が急ピッチで進んだ。 一方、新型コロナを過小評価し続けたトランプ大統領。大統領選直前に本人の感染が発表された際には、中国メディアは一斉に速報した。共産党系の環球時報は「トランプ大統領はテレビ討論会で、バイデン氏のマスク姿をあざ笑っていた」と揶揄してみせた。