『ミシュランガイド』星の秘密 正社員が調査で週10食 『ミシュランガイド』(上)
ラーメン、トンカツ、おにぎりも掲載
国内で最も歴史の長い東京版は17回の発行に至る中で、いろいろと新たな試みを重ねてきた。掲載するレストランのジャンルを日本の実情にふさわしく見直してきたのもその一例だ。 例えば、ラーメン店は『ミシュランガイド東京2016』で初めて星を受けた。『ミシュランガイド東京2019』にはおにぎり専門店が登場。今や世界的なブームとなっているおにぎり・おむすびの人気を先取りしたかのようだ。 「日本特有の食文化に早くから着目してきた」(三輪氏)という目配りが支持を受け続ける一因にもなっているようだ。日本固有の「食」は訪日観光の最強コンテンツともなっている。 初期の東京版は和食ジャンルがすしやふぐ、そば、天ぷら、うなぎなどのやや高級なカテゴリーに偏っていた。しかし、徐々に焼き鳥や居酒屋、串揚げなどの割とくだけた雰囲気・価格帯の店も選ばれるようになった。2013年版までは星付きの掲載店だけを掲載していたが、2014年版からはコストパフォーマンスに優れたレストランに着目した「ビブグルマン」を掲載。カジュアルな飲食店を紹介することが増えた。評価基準のような軸はぶれさせず、扱う対象に関しては柔軟に対応する「硬軟両様」の構えがミシュランガイドの奥行きを深めた。 「三つ星レストラン」という通称が高価格帯を連想させるように、日本上陸の当初は高級店に寄ったイメージが広まったが、「ビブグルマン」の登場はミシュランガイドの親しみを増した。この新セレクションで取り上げる店に星は付かないが、「価格以上の満足感が得られる料理」を提供する店という位置付け。ページ上の目印はミシュランのシンボル「ビバンダム」の顔だ。 実は日本ほど星付きレストランの割合が高いのは異例といえる。元祖のフランス版では星付きのほうが少数派で、大半は星を持たない。創刊当時の東京版では星付きレストランだけを掲載していたが、2024年版ではビブグルマンを含め、星のないレストランが増えた。今回から新設された「セレクテッドレストラン」の194軒も星を持たない。 幅広い料理カテゴリーやスタイルの飲食店・レストランをカバーする新カテゴリーだ。従来のジャンルや用途で切り分けにくいレストランも含まれている。星の評価には当てはまらないが、ミシュランガイドがお薦めする店を集めたという。 こうした新規のアプローチはフランスで判断しているので、日本が主導できるわけではないものの、「(食文化の厚みを考慮して)日本の状況も踏まえて展開されている」(三輪氏)。東京版のスタートから17年を経て、ミシュランガイドはアプリ版の普及や予約サービスとの連携などに力を入れる。持続可能なガストロノミーへの支援も新たな取り組みだ。後編ではこうしたプロジェクトの広がりを紹介する。