『ミシュランガイド』星の秘密 正社員が調査で週10食 『ミシュランガイド』(上)
評価基準は5つ、評価メソッドは世界共通
インスペクターは実際のところ、どれぐらいの頻度でレストランへ調査に赴いているのか。多少の違いはあるものの、三輪氏は「おおむね1週間に10食」と明かす。平日に限れば、毎日2食の計算。1日の食事の大半を仕事として食べている計算になる。 単に食欲を満たすのではなく、きちんと評価しながらの食事を、これだけのペースでこなすの大変だろう。評価リポートを書くのにも手間が掛かりそうだ。その意味からもインスペクターが正社員であるのはうなずける。 星はいったん受けても、ずっと保持できるわけではない。有効期限は1年間と決まっている。次の評価では星を失うケースも起こり得る。そうした変化を支えているのが年次更新のルールだ。 「評価は毎年、見直す。当然、調査も毎年、実施している」(三輪氏)。前回とは異なるインスペクターを充てて、評価の客観性を保つような配慮も欠かさない。「必要があれば、インスペクターを変えて何度でも訪ねる」(三輪氏)という徹底ぶりだ。 インスペクターは料理のどの部分を評価しているのか。「評価基準は5つ」と三輪氏は明かす。具体的には「素材の質」「料理技術の高さ」「味付けの完成度」「独創性」「常に安定した料理全体の一貫性」だ。この5項目は星の定義と一緒に、『ミシュランガイド』の冒頭ページに明記されている。 だが、インスペクターの評価がそのまま星へとつながるとは限らない。インスペクターの間で見方が割れることも起こり得る。ただ、評価に関しては合議制が採用されているので、きちんと妥当な結果に落ち着くようだ。インスペクターのほか、地域統括のリージョナル・ダイレクター、世界レベルのインターナショナル・ダイレクターが意見を交わして最終的な評価が決まるシステムだ。 こうした星を決めるまでの評価手順は1930年代に大枠が定まり、細部も見直しを重ねつつ、骨格が受け継がれてきた。母国フランス以外へ対象エリアを広げながら、原則を変えずに練り上げ続けたメソッド自体が『ミシュランガイド』の強みといえるだろう。 「読者の利益を最優先するという姿勢は当初から貫かれている」(三輪氏)。出版社による営利事業としてスタートしたのではなかった経緯はスタンスを保つ上でプラスに働いたようだ。 欧州で認知度を高めた後、2005年には初めて欧州の外に出て、ニューヨーク版を発行した。その2年後の2007年には欧米以外では初となる東京版を発行し、「世界で最も星の多い都市」の誕生で話題を集めた。 2023年12月に発行した『ミシュランガイド東京2024』でも世界で最も多くの星が輝く都市の座を守った。近年では上海やドバイなどでも発行が相次ぎ、デジタル版を含めて「約40ものエリアに広がっている」(三輪氏)。