【インドネシア】【24年の10大ニュース】新大統領就任、早くも独自色 10年ぶり交代、全与党体制で基盤
インドネシアの第8代大統領にプラボウォ・スビアント氏が就任した。2期10年を務めたジョコ・ウィドド前大統領の路線継承を掲げて2月の大統領選挙に当選したプラボウォ氏だが、10月20日の就任後から経済政策や外交面で独自色を打ち出している。 プラボウォ氏は任期中に経済成長率を8%に引き上げるほか、食料やエネルギーの自給の達成、貧困撲滅などを目指し、まずは目玉政策の無償給食事業を優先的に進める。ジョコ前政権が注力していたインフラや新首都「ヌサンタラ」の開発は継続するものの優先順位が後退しているもようだ。 外交ではジョコ氏が2国間の経済外交に注力したのに対し、プラボウォ氏は多国間外交にも積極的な姿勢を見せる。 独自色を出せる基盤は、省庁再編により閣僚ポストを増やし、連立与党に割り当てることなどで構築した国会での実質的なオール与党体制と11月に実施された地方統一首長選挙でのプラボウォ派の勝利によって形成されている。 2025年1月に始まる新年度を盤石な状態で迎えるプラボウォ氏が、独自政策を実行する中で財政規律を維持したまま高成長を遂げられるかが次の焦点になる。 ■【第1位】プラボウォ大統領就任、10年ぶり交代 インドネシアで2月に実施された大統領選挙で勝利したプラボウォ国防相が10月20日、第8代大統領に就任した。2期10年務めたジョコ前大統領から交代した。ジョコ氏の長男ギブラン・ラカブミン氏を副大統領に据えたプラボウォ新政権では主な経済閣僚が留任し政権運営の継続性を確保した上で、就任式以来、エネルギー自給率の向上や食料安全保障の強化を強調するなど独自色を示している。 国会では明確な野党勢力のいない「実質オール与党」体制を築いた。無償給食の来年1月からの実施、大規模農産地「フードエステート」の開発、パーム原油(CPO)などを利用したバイオ燃料産業の振興、年300万戸の住宅供給といった具体的な施策も打ち出している。 外交面では、中国と米国での首脳会談を皮切りに国際会議を含めて11月に17日間の初の外遊をこなした。 ■【第2位】新車市場低迷、電動車増も回復見えず 24年の新車市場は低迷が続いた。10月に新政権が発足し、年後半の販売加速を期待する声もあったが販売ペースは上向かず、回復の兆しを見いだせない1年となった。 1~11月の販売台数(ディーラーへの出荷ベース)は78万4,788台となり、前年同期比で15%減だった。一方、ハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)などを合わせた電動車の販売台数の割合は、11月単月で全体の15%まで拡大。24年は中国のEV最大手、比亜迪(BYD)が乗用車市場に参入し、非日系ブランドで首位に躍り出るなどEVを中心に中国系ブランドのシェアが徐々に高まった。 1~11月の市場シェアは、首位のトヨタ(33.4%)を筆頭に日系が89.8%、中国系が5.9%、韓国系が2.7%などだった。 政府は25年からHVに新たに3%の奢侈(しゃし)税の減税を決めたが、販売を押し上げる効果は限定的とみられる。 ■【第3位】新首都で独立記念式典、開発減速も インドネシアの独立79周年を祝う記念式典が8月17日、東カリマンタン州に整備中の新首都「ヌサンタラ」で初めて行われた。新首都移転を推進してきたジョコ大統領(当時)が悲願を実現させた。任期満了直前の10月には、新首都で大統領宮殿の完成記念式典も開催した。 一方、ジョコ政権の政策を継承すると公約に掲げたプラボウォ大統領は就任演説で新首都に言及せず、就任後の新首都の開発ペースは芳しくない。民間企業などによるヌサンタラ開発プロジェクトへの投資額は、2023年9月~24年9月に起工した第8弾までで58兆ルピア(約5,630億円)。24年目標とする100兆ルピアの6割弱に過ぎない。 プラボウォ氏は28年8月からヌサンタラで職務を開始する意向を表明し、ドディ公共事業相も優先政策の変更があったと認めていることからも、開発スピードは前政権と比べて減速しそうだ。 ■【第4位】地方首長選、プラボウォ派が勝利 全国の37州知事、415県知事、93市長を選ぶ統一地方首長選挙が、11月27日に実施された。プラボウォ大統領を支持する政党が擁立した候補者の多くが勝利を収める結果となった。 州知事選では、先の大統領選でプラボウォ氏を推した政党連合「先進インドネシア連合(KIM)」にナスデム党、国民覚醒党(PKB)、福祉正義党(PKS)が加わった「先進インドネシア連合プラス(KIM+)」の形で候補者を擁立した8州のうち7州で圧勝した。唯一敗北したのは首都ジャカルタ特別州で、闘争民主党(PDIP)が推したプラモノ・アヌン氏(前内閣官房長官)が当選した。 地方選を巡っては、立候補受け付けの開始前に国会が候補者の年齢要件に関する法改正を試みたことで、全国的な抗議デモが発生。法改正が実質的に、ジョコ前大統領の次男カエサン・パンガレップ氏の出馬を可能にさせるためだとして市民から批判が相次ぎ、結果的に法改正は見送られ、カエサン氏の出馬もなくなった。 一方、北スマトラ州ではジョコ氏の娘婿のボビー・ナスティオン氏、中ジャワ州ではジョコ氏が同州スラカルタ(ソロ)市長時代に同市警察の副署長だったアフマド・ルトフィ氏が当選するなど、ジョコ氏の権力基盤も一定程度保持される形となった。 ■【第5位】OECD加盟申請、BRICSも意欲 政権交代があった24年は新旧の政府が多国間の国際枠組みへの参画を推進した。 ジョコ前政権下では「先進国クラブ」と呼ばれる経済協力開発機構(OECD)への加盟審査が2月に始まり、9月には環太平洋連携協定(CPTPP)への加盟を申請した。OECDは3年以内の加盟を目指しており、実現すれば東南アジアで初めての加盟国となる。 一方、プラボウォ大統領は就任演説で非同盟外交の原則を踏襲する方針を示しつつも、政権発足から4日後には主要新興国で構成するBRICSに加盟する意向を表明した。ジョコ前政権はBRICSの中心国の中国とは強固な経済関係を構築しているため、あえて特定の経済ブロックに入るより、OECDへの加盟を優先していたが、新政権は方針を転換した。 BRICS首脳会議の拡大会合に出席したスギオノ外相は「BRICSの優先事項は、食料とエネルギーの安全保障、貧困の撲滅、人的資源の向上などインドネシア政府の事業計画と一致している」とした上で「BRICSがグローバルサウスの共通利益を議論し推進する適切な手段になる」と述べ、グローバルサウスを意識した「全方位外交」を展開する姿勢を見せている。 ■【第6位】しぼむ中間層、経済成長5%維持も 24年はインドネシアで中間層の減少や市民の購買力の低下が社会問題として指摘された。同年の実質国内総生産(GDP)成長率は5%程度を維持する見通しだが、インフォーマルセクターや付加価値の低い産業に従事する人も多く、今後成長率を高めるためには高付加価値産業を育成する必要性が指摘されている。 インドネシア大学経済社会研究所(LPEM)が8月に公表したリポート「インドネシア経済アウトルック」では、中間層に分類される人口が直近でピークだった18年を境に23年までに14%減少したこと判明した。 23年の中間層人口は5,203万人で全人口のうち18.8%だった。一方、中間層予備層といわれる一段階下の所得層は過去10年間で一貫して増加傾向にあり、23年に1億4,754万人となった。 また、若年層の中で通学や就業をせず、職業訓練も受けていない「ニート」の割合が高いことも話題となった。労働省の調査では15~24歳のうち22%がニートに該当するとされた。経済成長を支える生産年齢人口に占める割合が多い若年世代への雇用創出と適切なスキルの習得は、45年に世界五大経済大国入りを目指すインドネシアにとって重要な課題となる。 ■【第7位】最賃6.5%上昇、異例の政治決着 インドネシアで勤続1年未満の従業員に適用される25年の州別最低賃金(月額)が、前年比6.5%引き上げられた。24年の上昇幅は多くの地域で4%未満だったのと比べて大幅引き上げとなった背景には、10月に就任したプラボウォ大統領が異例の政治的判断をしたことがある。 最低賃金は従来、州は11月21日、県・市は同月30日までに決定するはずだったが、25年の最低賃金の算出を巡っては憲法裁判所が10月末に下した違憲判決を受けて発表が遅れていた。こうした中、プラボウォ大統領が11月29日に突如、平均6.5%の引き上げを自ら発表、その後に労相令が公布された。 ジョコ前政権下で撤廃された業種別最低賃金も、憲法裁判決により再び導入される。業種別最低賃金は、州別や県・市よりも高い金額となり、ジャカルタでは最高額が7業種で月額553万1,680ルピアとなった。 労働組合総連合(KSPI)のサイド・イクバル議長(労働党党首)は、労働者側が要求していた8~10%の引き上げ幅に近いことから、6.5%の上昇率の決定を受け入れる姿勢を表明。一方で、経済界からは、度重なる最低賃金に関する算出式の変更は投資誘致にマイナスに働くとの懸念が出ている。 ■【第8位】無償給食、商機と課題抱え始動 プラボウォ新政権下では、無償給食事業や食料自給の達成に向けた取り組みが優先的に始まった。給食用に供給する食品分野に潜在的な商機がある中、コメの安定生産や価格抑制などの課題も抱える。 プラボウォ氏は大統領選で無償給食事業を目玉公約に掲げ、当選後には一部の地域で試験的に実施してきた。正式な導入は25年1月から全国で段階的に開始する計画。同年度予算は71兆ルピアを割り当てた。事業では地元のケータリング業者や農家などを巻き込むほか、政府は自給できていない牛乳を提供するために、オランダ系乳製品企業やオーストラリアの農業・畜産業会社などと乳牛の飼育についても協議している。 食料自給の達成目標については、ズルキフリ調整相(食料担当)が11月末、当初の28年から1年前倒しし27年にすると発表した。とりわけコメの生産量の拡大は急務だ。2期10年間の任期中の支持率が総じて高かったジョコ前政権下でも、食品価格の高騰時には支持率の低下を招いており、プラボウォ政権にとってもコメの安定生産と価格抑制がアキレス腱(けん)となる。 ■【第9位】イスラエル不買継続、スタバ赤字 イスラエル軍のパレスチナ・ガザ地区への無差別攻撃が激化した23年10月以降に広がった、親イスラエルとみなされた欧米ブランドの不買運動は24年も続いた。不買対象となった米スターバックス、ケンタッキーフライドチキン、ピザハットを運営する地場企業3社の年間業績(23年10月~24年9月)は赤字となった。9月末時点の店舗数も前年同月末比でいずれも減少しており、不買運動の影響が顕著に表れた。 インドネシアの不買運動は◇イスラム教聖職者組織「インドネシア・ウラマ評議会(MUI)」が23年11月に発出したイスラエルと関係のある製品の取引や使用を可能な限り避けることなどを定めたファトワ(宗教見解)『23年第83号』◇パレスチナで05年に立ち上げられた世界的な市民運動「BDS(ボイコット・ダイベストメント・サンクション)運動」◇草の根レベルの有機的な不買運動――に立脚。 プラボウォ大統領も10月の就任演説や、11月の外遊での習近平国家主席や国連のグテレス事務総長との会談でもパレスチナの支援やイスラエル軍の無差別攻撃に深刻な懸念を表明している。 ■【第10位】首都MRT東西線、日本が支援継続 日本とインドネシア両政府は5月、インドネシア・ジャカルタの都市高速鉄道(MRT)の新路線、東西線の建設に関する円借款契約を締結した。既設の南北線に引き続き日本政府がMRT建設の支援を継続することが正式に決まった。 これを受けて、東西線開発の始動を宣言する式典が9月、東西線と南北線が乗り入れる計画のタムリン駅で執り行われた。大統領の任期満了を約1カ月後に控えていたジョコ氏が出席し、「MRTがジャカルタの様相を変え、さらにはインドネシアの交通網を変えた」と述べ、東西線がジャカルタ首都圏の発展を一層推進することに期待を込めた。東西線の着工は25年以降、開業は31年を目指す。 ■【番外編】サッカーW杯予選、首都で日本と対戦 サッカーのインドネシア代表も参加している26年の北中米ワールドカップ(W杯)アジア最終予選で、インドネシア代表がジャカルタで日本と対戦した。サッカーはインドネシアで国民的な人気があり、会場となったスナヤン地区のブンカルノ競技場は6万人の観衆で埋まった。市内のレストランなどの大画面のテレビで観戦する在留邦人も少なくなかった。 インドネシア代表は国籍を変更した選手を多数登用しながらチームの強化を図るも、日本戦では4―0で敗北した。 イタリアの強豪インテル・ミラノでクラブのオーナーを務めたこともあるインドネシアサッカー協会(PSSI)のエリック・トヒル会長(国営企業相)は「プラボウォ大統領からは協会への予算倍増も約束された」と明かした。国を挙げて競技レベルの向上をサポートする意向だ。