残念ながら、日本にはアップルもエヌビディアもない…それでも最先端半導体にこだわる「本当の理由」
米中の経済対立はますます深刻化している。前編記事『もはや日本は、中国に勝てない…いつの間にか中国の「半導体」がすさまじく進化していた!』では、戦略物資のひとつである半導体をめぐって、両国がしのぎを削る様子を紹介してきた。 【画像】中国で、まさか「長江」が干上がった…! しかし日本も決して無関係ではいられない。いくらでも血税を使いたい放題のマジックワード「経済安全保障」を巧みに駆使して、政治家と経産省が「アメリカの猿真似」を始めたからだ。そのツケを最後に払うのは、結局われわれ国民だ。
マジックワード「経済安全保障」
元々、米国は中国を「人件費の安い工場」として利用してきた。2007年に発売され、あっという間に世界の携帯電話市場を席巻したアップルのスマートフォン、iPhoneが良い例だ。製品コンセプトを練り上げ、それに必要な半導体チップなどを設計するのはカリフォルニア州に本社を置くアップルだが、実際にチップを作るのは台湾のTSMCだ。 そしてアップルが日本を含む世界中から調達する液晶パネル、リチウムイオン電池などを集め、スマホの形に組み立てるのは台湾の鴻海精密工業が経営する中国の組み立て会社、富士康科技集団(フォックスコン)である。ホンハイの中国工場の従業員数はピーク時100万人を超えていた。 オバマ政権の2期目の終わりあたりから、米国は、急激な経済成長を果たし覇権国家への意欲を見せ始めた中国を脅威と捉えるようになり、2017年にトランプ政権が誕生すると、中国を潜在的な敵とみなす姿勢が決定的になる。世界の半導体事情に詳しいコンサルタントが解説する。 「2020年に始まった世界的な半導体不足や、ロシアのウクライナ侵攻で台湾有事が現実味を持って語られるようになったことで、中国脅威論はますます強まりました。バイデン政権は、ハイテク産業に欠かせない半導体を、地政学的に中国から影響を受けやすい台湾や韓国からの調達に依存している状況を変えようとしています」 その戦略の最たるものが、米国へのTSMC誘致だ。米政府からの強い要請を受けたTSMCは2020年5月以降、アリゾナ州フェニックスに3つの工場を建設することを立て続けに発表した。総投資額は650億ドル(約10兆円)で、このうち66億ドルを米政府が助成するほか、50億ドルを融資する。 TSMCにはアップル、エヌビディア、インテルなど米国を代表するハイテク企業が半導体の生産を委託している。台湾有事で調達が滞れば、サプライチェーンが途切れてしまう。「そうなる前に、いざというときこちらで作れる体制を整えておけ」というわけだ。 国が特定の企業、しかも外資に、116億ドルの投融資をするというのは米国でも前例がない。資本主義の総本山である米国であるがゆえ、1つ間違えれば有権者の不興を買う恐れがある。加えて二大政党制が定着している米国では、政権が替わると前政権が実施した政策を徹底的に検証し、失策があれば容赦無く批判される。 そこでTSMC誘致に巨額の税金を使うバイデン政権が持ち出したのが「経済安全保障」という考え方だ。経済安全保障とは、国家が自国の経済活動や国民生活に対する脅威を取り除くため、エネルギーや資源などを安定して確保するための措置を講ずることを指す。これを拡大解釈し、経済活動や国民生活に欠かせない半導体の安定供給も経済安全保障の範囲とした。 2022年10月には輸出管理規則(EAR)を改正し、AI技術に利用する先端半導体や、その製造装置等の対中輸出規制を大幅に強化した。さらに、2023年10月には、第三国からの迂回輸出を防止するための規制の強化等も発表している。