“ラーメン一杯1500円” “外国人が作ってもブレない味” 有名ラーメン漫画の「天才」のモデルとなった男が語った「ラーメンの新時代」
もう新しいラーメンは食べられない!?
――先ほどまでは価格の未来についてお伺いしましたが、これからはどのようなラーメンが流行るとお考えですか? これからの流行については詳しくは分かりません。ただ、これから新しいラーメンの味を生み出す人は数年に一回現れるくらいになるだろうなと思っています。不景気も影響しているのか、今は新規に出店するお店が他のラーメン屋と同じ味のラーメンを提供することに何の抵抗も感じなくなっている世の中になってしまっています。そのため、新規のお店の多くの味が有名店のモノマネに留まり、オリジナリティがなくなっているように感じます。例えば、いま流行っている水と鶏だけで出汁をとる水鳥系ラーメンは2000年代前半に「ラァメン家 69’N’ROLL ONE」さんが生み出したラーメンなんですが、新規のお店の多くがその味の劣化版になってしまっています。そして、このいま流行っている水鳥系ラーメンですら2000年代前半に生まれたものなので、その点を考えると、これから新しい味はなかなか生まれてこないだろうなと思います。
渡辺樹庵流 ラーメン屋を経営する上での工夫
――他にも今どきのラーメン屋さんについて思うところはありますか。 そうですね、別に「お店にお金をかけるべき」とは思っていませんが、最近の傾向としては昔よりもお店にお金をあまりかけていないなと思います。細かい話ですけどテーブルとか壁とかを見ていると、低予算低コストで出店しているなぁと感じることはあります。あとは、居ぬきのまま店舗を使っているところとかもありますね。 22年前、「渡なべ」の創業時には内装にこだわりました。テーブルは一枚板で多分100万円くらいしたと思います。あとは、壁は珪藻土でできていますし、店舗も「渡なべ」の場所にはもともとカレー屋さんがあったのですが、それを全部更地にして店を一から作り直しましたね。 ――渡辺さんご自身はお店でどのような工夫をされていらっしゃるのでしょうか。 例えば、「渡なべ」ではメインのラーメンの他に期間限定のラーメンを提供していて、その限定ラーメンを定期的に更新し続けています。今だと「すっごいよ豚骨」という僕のラーメン屋人生の原点ともなる味を再現してお出ししていますが、その他にも全国各地のご当地ラーメンのお店の味などを独自に再現したりして頻繫に限定麺を更新しています。コロナ禍にお客さんが来なくなったときは限定麺を変える頻度を増やして、1~2週間で変えてました。すると、限定麺にお客さんが付いてくださって、コロナ禍で過去最高売り上げを記録したりもしました。今では限定麺が認知されて売れるようになってきたので、短くて2週間、長くて1ヶ月は同じ限定麺を続けています。 新しい限定麺のスタート時には多いときで売上全体の7割くらいが限定麺です。限定麵の売上が5割を切ってくるとそろそろ次の限定麺の準備を始めて、次の限定麵に変わるときでも3~4割の売上がありますね。 また、今は明確に店内の世界観も考えています。分かりやすい例でいうと、上品なラーメンを出すお店では暖色系の灯りを使って店内を少し暗くしたり、家系ラーメンだと蛍光灯で店内を明るくしたりだとかは考えます。 それと、僕が新しい店を出すときは、まず物件から探します。決めた物件の広さや周りの状況を見てから、ラーメンの味を決めますね。場所に合った味があると思うので。最近もそれを実感したことがありました。僕は神保町に「可似」という生姜醤油ラーメンのお店を出しているのですが、その店舗は今まで売り上げが伸び悩んでいました。だけど、最近になってから急に売り上げが良くなったんですよね。その理由について考えてみますと、おそらくその要因が生姜醤油という味が神保町に適していたからだと気が付きました。立地に合った味を真面目にコツコツ出していると、だんだんとお客さんはついてきてくれることを改めて実感する出来事でした。美味しいかどうかってあんまり問題じゃなくて、その場所にいる人にとって美味しいかどうかが大事だと思います。