「痛みを訴えても“気のせい”と言われ…」『極悪女王』指導役・長与千種が語る80年代の狂気と「少女たちとの絆」
試合は99.9%、役者が演じた
長与 受け身は大きく分けて3通りあるんです。それぞれの受け身をさらに分解したものを2年の撮影期間で徹底して教えていたんですが、早い人だと半年でできていましたね。ありがたかったのは、彼女たちが10キロ、15キロとすごく増量してきてくれたこと。体にマットを1枚巻く感じになるので、受け身も上手くなるんです。 スー 撮り方もあるんでしょうけど、みんな当たり前に受け身をとっていて驚きました。 長与 力強くてシンプルイズベストな技もたくさん出てくるんですけど、それも俳優としての体の表現が加わることで説得力が増して見えるんです。 これはやっと言えることですが、試合は99.9%役者が演じています。これまでもプロレスを題材にした作品はありますが、ここまで役者がやるというのはなかったですよ。もちろんもしものことがあったときにすぐスイッチングできるようにプロレスラーは待機していましたが、みんな役者陣の試合を観ながら勉強になると唸っていましたね。 スー 撮影の準備のため、俳優さんたちはMarvelousの道場に通われていたわけですよね。 長与 有名無名関係なく、みなさん船橋の駅からバスに乗って道場通いしていました。この一日一日を絶対に無駄にしないという気合を毎回感じましたよ。常にトレーナーさんが付いていたので、万全のケア体制のもとで練習できたのもよかったです。 スー 大きな怪我もなく。 長与 ただ、撮影中にゆりやんさんが頭を打ってしまって。そのときは監督を始め多くの方々が話し合い、インターバルをしっかり取り、回復を待ってから撮影を再開しました。自分も経験がありますが、怪我には安静が一番ですから。周りの方も、彼女自身もしっかりケアをしてくれていました。 スー 80年代当時って、今みたいにロキソニンが市販薬では買えないじゃないですか。あの頃、痛み止めはどうされていたんですか? 長与 痛みを訴えても「気のせい」って言われていました(笑)。どこが痛いか伝えても、塗り薬のサロメチールしか出てこないんです。当時は病院に行きたいと言うと敗者の烙印を押される。次の試合に入れてもらう権利を無くしてしまうので、言えなかったですね。