【名馬列伝】ウオッカ、ダイワスカーレットが築き上げた“牝馬の時代”を継承したブエナビスタ。顕彰馬クラスの実績を刻んだ名牝物語
父は第65代ダービー馬、母は3歳女王の良血馬
ブエナビスタは父に日本ダービー、春秋の天皇賞、ジャパンカップを制した名馬スペシャルウィーク、母に阪神3歳牝馬ステークス(GⅠ、現・阪神ジュベナイルフィリーズ)を勝ったビワハイジを持つ良血馬としてノーザンファームで生を受けた。トレセンへ入厩すると、調教で牡馬のオープン馬を煽るほどの高いポテンシャルを見せて早くから評判になる。 強豪牡馬と手合わせした新馬戦こそ差し届かず3着に敗れたが(1着は、のちの皐月賞馬アンライバルド、2着はダービー2着に入るリーチザクラウンというハイレベルなデビュー戦だった)、2戦目の未勝利戦では8番手から爆発的な末脚を繰り出し、”持ったまま”2着に3馬身差をつけて圧勝。その勢いを駆り、17分の6の抽選を突破して臨んだ阪神ジュベナイルフィリーズでは1勝馬ながらオッズ2.2倍の単勝1番人気に推されると、16番手からこれぞ後方一気という豪快な追い込みを決めて、2着に2馬身半差も突き放して優勝。手綱をとった安藤勝己は「まだ遊びながら走っていた」と驚きを隠せない快走だった。 この勝利が高く評価されて、投票権を持つマスコミ関係者300名のうち、1名を除いた299票を集める準満票で、ブエナビスタは2008年度のJRA賞最優秀2歳牝馬に選出された。 翌09年の春。チューリップ賞(GⅢ)を快勝したブエナビスタは、一冠目の桜花賞(GⅠ)に単勝オッズ1.2倍という圧倒的な1番人気に推されて出走した。後方16番手を進むと、先に抜け出した2番人気レッドディザイアを豪快に外から差し切って半馬身差で勝利を収めた。彼女のストロングポイントである驚異的な末脚の切れを生かし切っての快勝劇だった。 続くオークス(GⅠ)でもオッズ1.4倍の1番人気に推されたが、彼女はここでまた恐るべきレースを見せる。前走で接戦を演じたレッドディザイアは中団から早めに仕掛けて馬群から抜け出し、直線の坂上ではセーフティリードと思われる数馬身の差を付けて懸命に逃げ込みを図った。しかしブエナビスタはその計略を許さず、直線大外から10数頭をごぼう抜きし、レッドディザイアと馬体を併せてゴール。写真判定に持ち込まれたが、僅かにハナ差で牝馬クラシック二冠制覇を成し遂げた。 札幌記念(GⅡ)2着を経て臨んだ牝馬クラシック三冠の最終関門である秋華賞(GⅠ)は、先述したように2位入線・3着降着という憂き目に遭う。そして、その後のエリザベス女王杯(GⅠ)では11番人気クィーンスプマンテの逃走劇を許して差し届かずの3着に敗れ、年末の有馬記念(GⅠ)ではドリームジャーニーの強襲を受けて2着と涙を飲んだ。
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