糖尿病になった夫を捨てた私は鬼ですか?「人間のクズ」と責められても、一途な妻が夜逃げを決行したやむにやまれぬ理由
咲枝さんは約20年にわたって夫の事業をサポート。経理や採用などのバックオフィス業務から現場での調理や接客まで「何でも屋」として身を削りながら働いた。 「夫とは恋愛結婚だったはずなのに、何を好きになって結婚までしたのか、もう今では思い出せません。昔は優しいとか頼れるなとか思う時もあった、ということでしょうか」 夫が脱サラして飲食店を始めたのは30代のはじめ。結婚してすぐのことだったという。 「どうしてもやりたいというので私もパートとして同業店で働き、ちょっとした修行もしました。小さな掘っ立て小屋みたいなテナントから始めましたが、夫の作る商品は本当においしく、あっという間に地域の人気店に上り詰めたんです」 出産・育児の時期と重なったが、できるだけ休まないよう、咲枝さんはつらい体にムチ打って夫に尽くしてきた。子供がかわいいことと店が繁盛していることだけが咲枝さんの救いだったのである。 「夫は自分の舌に絶対的な自信を持っていますが、それが世の中にも認められたことで、食への探求心をいくらでも深めていいと思い込んだのかも」 と咲枝さんは語る。何を隠そう咲枝さんの夫は、「食いつくし系」と言われる種族でもあるそうだ。 「家にあるおやつの類は、見つければなくなるまで食べていました。子供が大切に残しておいたチョコであろうが、学校や子供会のイベントで貰ってきたシュークリームであろうが、遠慮なく勝手に食べつくしてましたね」 咲枝さんが「ねえ、子供が楽しみに取っておいたおやつまで食べないでよ」と注意すると……。 「『うるせーな、食い物くらいでチマチマと。そんなに食いたきゃこれで買ってこいよ』と千円札を投げてよこしたり、『人をコソ泥みたいに言ってんじゃねーよ。そんなに大事なら名前書いとけ!』と怒鳴ったり。もううっとうしいので、私も子供もだんだん何も言わなくなりました」 食への探求心を言い訳に、暴飲暴食を続ける夫。さらにそれを咎めると逆ギレというモラハラっぷり。 【後編はこちら】では、そんな夫の糖尿病に至るまでと、そこから咲枝さんに降りかかる理不尽すぎる仕打ちを記述する。 取材/文 中小林亜紀 PHOTO:Getty Images