箱根を沸かしたエースランナーに未来はあるか?
正月の箱根駅伝は、青学大が圧倒的な強さで連覇を達成した。「山の神」と呼ばれた神野大地を主人公にした漫画なら、これでハッピーエンドとなるだろう。しかし、現実は違う。神野をはじめ、箱根路を沸かせた選手たちの競技人生は今後も続くのだ。むしろ「走る」ことが「評価」につながる社会人(実業団)の方が、アスリートとして“本当の価値”が試されることになる。 そして、明るい未来が待っているとは限らない。箱根のスーパースターだった早大・渡辺康幸(現・住友電工監督)は故障に泣き、「山の神」と称賛された東洋大・柏原竜二(現・富士通)も悪戦苦闘中だ。箱根のインパクトが大きければ大きいほど、社会人ではそのギャップに悩まされることになる。 今回の箱根駅伝を振り返ると、神野大地(青学大)、久保田和真(青学大)、服部勇馬(東洋大)、ダニエル・ムイバ・キトニー(日大)という4年生が大活躍した。彼らにはどんな現実が待っているのか。4人の進路を踏まえて、冷静な目で考えてみたいと思う。 まずは5区で見事な復活劇を見せた神野大地(青学大)だ。大学卒業後はコニカミノルタに入社する。「1年目は駅伝で、2年目からマラソン。才能を全部出し切り、東京五輪のマラソンでメダルを獲得して引退したい」と本人は青写真を描く。そして、引退後は「指導者」の道を考えているという。
コニカミノルタは元日に行わるニューイヤー駅伝(全日本実業団駅伝)で、2000年以降、8度の優勝を飾り、「21世紀の駅伝王者」と呼ばれている。松宮隆行、坪田智夫、宇賀地強などトラックの1万mで世界大会に出場するようなエースの快走と、選手層の厚さで他を圧倒してきた。今年も2位に入っており、チームには駅伝巧者が揃っている。 ニューイヤー駅伝は4区が最長区間で、5区が上り区間。神野の特性を考えると5区での期待が大きいが、1万m27分台の山本浩之が今回5区で区間賞を獲得しており、その壁を超えるのは簡単ではないだろう。1区と3区はスピード区間で、5~7区は向かい風が強い区間。スピードタイプではなく、体重(44kg)も軽い神野は、ニューイヤー駅伝のコースにあまりフィットしていない。 しかも、コニカミノルタは駅伝でのキャリアを考えると、マラソンで成功しているとは言い難い。チーム最高記録は黒崎拓克の2時間9分07秒。日本歴代で46位というタイムにとどまっているのだ。マラソン練習のノウハウがあまり確立されていないことも考えられるが、一番の原因は「駅伝」ではないかと感じている。強豪チームになればなるほど、会社からは「優勝」を求められる。特に主力選手は駅伝とマラソンの両立が難しい。神野が憧れだという宇賀地強もマラソンでは結果を出せずにいる。反対にマラソンでチーム最高記録を保持する黒崎は、ニューイヤー駅伝に8回の出場機会がありながら、2度しか出場していない。その分、マラソンに集中できた可能性は高い。 また、かつて「山の神」と呼ばれた今井正人(トヨタ自動車九州)は入社2年目からマラソンに挑戦して、日本歴代6位の2時間7分39秒をマークしたのは入社8年目(マラソン10戦目)だ。神野は入社4年目で東京五輪の選考レースを迎えることになるが、もう少しじっくりとマラソンに取り組む気持ちでいた方がいいかもしれない。いずれにしても、マラソンは「箱根5区」のようにはいかないだろう。