箱根を沸かしたエースランナーに未来はあるか?
2年連続して“花の2区”で区間賞を獲得した服部勇馬(東洋大)は、ニューイヤー駅伝で連覇を果たしたトヨタ自動車に入社する。服部はスピードもまずまずあり、スタミナも豊富。駅伝要員として考えた場合、非常に使い勝手がいい選手だ。しかし、服部の野望は駅伝で「日本一」になることではない。選手としては、「東京五輪マラソンのメダル」を最大の目標に掲げている。大学3年時からマラソン練習をしており、今年2月の東京マラソンにも出場予定だ。 服部がトヨタ自動車を選んだ理由のひとつに、「選手層が厚い」ことがあった。なぜかというと、有力選手が多数いるチームは、選手層の薄いチームと比べて、マラソンを目指す選手の駅伝への負担が軽くなるからだ。ある意味、恵まれた環境でマラソンに取り組むことになる服部だが、東京五輪への道はバラ色とはいえない。トヨタ自動車の指揮官はコニカミノルタでコーチを務めていた佐藤敏信監督で2008年に就任している。トラックや駅伝と比べて、マラソン指導の実績は乏しい。チームのマラソン最高記録は尾田賢典の2時間9分03秒で日本歴代43位。コニカミノルタ同様に駅伝での実績を考えるともうひとつだ。服部が東京五輪でメダルを狙うには、チームのノウハウを超える活躍が必要で、成功まで試行錯誤が予想される。 1区で区間賞を獲得して、金栗賞(MVP)に輝いた久保田和真(青学大)は、九電工に入社する。東京を拠点とする会社と迷っていたが、郷里近くで競技を続ける道を選んだ。九電工は前田和浩、酒井将規がマラソンで結果を残しており、近年はマラソンのイメージが強い。久保田も「東京五輪」を目標にしているが、タイプ的にマラソン挑戦は時間がかかりそうで、トラックで狙うことになるだろう。チームは今年のニューイヤー駅伝で10位。今季、学生三大駅伝すべてで区間賞を獲得した久保田の加入で、5年ぶりの入賞が狙えそうだ。
神野を抑えて5区で区間賞を奪ったダニエル・ムイバ・キトニー(日大)はカネボウに入社する。どのチームに進んだとしても、キトニーの走力では実業団での苦戦は必至だ。ニューイヤー駅伝は2区の8.3キロがインターナショナル区間。1万m26分台クラスの選手が上位争いを繰り広げており、1万m28分02秒のキトニーでは相手にならない。駅伝で活躍できないと、日本で長く競技を続けることは難しい。またマラソンで勝負するとしてもケニア代表に選ばれるには2時間2~3分台の実力が必要だ。 箱根駅伝で活躍すると社会人でも注目されることになる。そのなかで、特にマラソンで結果を残すのはかなり難しい。しかし、すぐに結果がでなくても、本当に強いランナーはいずれ必ず結果を残す。箱根を走り終えた後、服部勇馬は言っていた。「本当の勝負はこれからだ」と。その気持ちを忘れずに、箱根路で輝いたランナーには本気で世界を目指して戦ってほしいと思う。 (文責・酒井政人/スポーツライター)