幻の〝初霜漬〟再現に挑戦 調理師学校部長・真嶋伸二さん、水戸徳川家ゆかりの保存食
水戸徳川家から江戸時代には将軍家、明治以降は皇室へ献上されていたサケを加工した保存食「初霜漬(はつしもづけ)」の再現に中川学園調理技術専門学校(水戸市見川)の統括部長、真嶋伸二さん(69)が取り組んでいる。正式なレシピは残されておらず、関係者からの伝聞が頼りだが、「少しでも本物の味に近づけたい」と幻の一品の完成を目指している。 【写真】サケの半身は切り分けたあと、濃い塩水に漬け込む ■昭和61年まで製造 初霜漬は、茨城県内を流れて太平洋へ注ぐ那珂川で秋にとれるオスのサケが材料。切り身を濃い塩水に丸2日間漬け込み、さらに麹(こうじ)とふかしたコメを混ぜた床に寝かせると塩分と水分が抜けて凝縮された味わいとなり、焼いていただく。 初霜漬を作ってきたのは、代々の当主が菊池七郎兵衛を名乗る水戸の那珂川沿岸の網元。製法は戦後まで受け継がれていたが、昭和61年夏の那珂川の氾濫によって製造道具などが失われ、以来、〝幻の味〟となっている。 ■3度目の再現挑戦 真嶋さんは十数年前、菊池家の関係者に助言を受けながら初めて初霜漬づくりに挑戦。切り身を最初に漬ける塩水の割合について「水一升と塩七合」と教わった。「それを一昼夜コトコト煮詰めたそうです」 今回の初霜漬づくりは3度目の試みとなる。那珂川のサケは近年の不漁で残念ながら入手できず、青森産の2匹を仕入れた。真嶋さんは鮮やかな包丁さばきでたちまち三枚におろし、半身についている中骨を毛抜きに似た道具「骨当たり」で丹念に取り去ると、さらに塩水に漬ける容器に入る大きさへ切り分けた。 続いてドロッと濃い塩水を容器へ注ぎ、切り身を敷くとまた塩水をかける作業を繰り返す。「手が痛い! 塩が染みますね」と真嶋さんは泣き笑いの表情。 ■年明けに試食会 塩分濃度の高さを示すように切り身は容器の中でプカリと浮いた。まるでイスラエルの死海の様相だ。「切り身は今は柔らかいが、塩漬けにするとカパンカパンに堅くなります」と真嶋さん。この切り身を取り出し、麹とコメの床へ移す次の作業は16日以降を予定している。 関係者を招いての試食会は来年1月下旬ごろを見込んでいる。「できれば、かつて初霜漬を食べたことのある人の批評を聞いてみたい。『これでは違う』といわれるのか、お墨付きをもらえるか」と真嶋さんは深くうなずく。(三浦馨)