ヒグマ防除隊の隊長「ヒグマ駆除は一枚岩でなければできない」 北海道猟友会の決定への「本音」とは
■証拠が揃わないとハンターに「手錠」 市街地でのクマの駆除にはいくつもの困難がともなう。鳥獣保護管理法は市街地での猟銃の使用を禁止している。ハンターはみずからの判断で発砲することはできないため、警察官が警察官職務執行法に基づく発砲を命じる。 その際、銃弾が後方に飛んでいくのを避ける「バックストップ」と呼ばれる地面が必要とされるし、跳ね返った弾が住宅や車に当たらないよう、軌道を計算しなければならない。 「市街地で発砲する場合、その違法性を阻却(そきゃく)できる証拠が揃わないと、私たちに手錠がかかってしまいます」 玉木さんらは、発砲にいたる全ての記録が残るように準備を整えてから、任務を遂行する。 22年9月、札幌ドームの敷地内でヒグマが目撃され、防除隊が出動した。札幌ドームは幹線道路に囲まれている。どこへ撃っても、「市街地のど真ん中で発砲、という状況」だった。 玉木さんは「今回のミッションは、警察官職務執行法に基づく発砲になると思います。それでよろしいですか」と関係者に切り出し、了承を得た。3人のハンターの背後には警察官のほか、札幌市や調査会社の職員が張り付いたという。玉木さんは言う。 「クマの駆除は、行政、警察、猟友会が一枚岩でなければできないのです」 ■心臓を撃っても向かってくる 玉木さんは、ヒグマを駆除できるのは、「猟友会のメンバーだけ」と話す。 警察の特殊部隊(SAT)や自衛隊の隊員は銃器の取り扱いに慣れてはいるが、発砲の目的は犯人の確保や効率よく兵力を削減することで、相手を殺す訓練は受けていない。 さらにヒグマを駆除する場合、その動きを熟知し、「バイタルポイント」と呼ばれる急所を確実に撃ち抜く必要がある。バイタルポイントとは、脳(脳幹)や心臓、肺などだ。
■バイタルポイントを外れれば 「もし、弾がバイタルポイントを外れれば、惨劇になりかねない。クマに反撃されるだけでなく、手負いになったヒグマが市街地に放たれるということですから」 クマの頭を射撃して脳幹神経を破壊すれば、確実に動きを止められる。だが、頭蓋骨は分厚く、狙いが少しでも外れれば、弾ははじかれてしまう。急所を狙うといっても、部位によってはリスクもあるということだ。 「クマがこちらに向かってくるとき、頭部の解剖図が頭に浮かんで、『この角度から撃てば脳幹神経に到達するな』と冷静に判断して射撃できる人でないと、頭は撃たせられません」 そのため、ハンターは心臓や肺などを狙って撃つことが多いが、仕留めるのは容易ではないという。 「興奮して、口から泡を吹きながら向かってくるような場合、バイタルポイントに命中しても、1発だけではとても動きを止められない。弾を5発ほど放ってようやく静止したヒグマもいました」 (AERA dot.編集部・米倉昭仁)
米倉昭仁