渡辺えり×木野花 69歳と76歳、47年の付き合いを振り返る。きっかけは如月小春さん。女性の劇作家・演出家が少ない中、東北出身で親近感が湧いて
47年のつきあいになるという渡辺えりさんと木野花さんは、演劇界をともに駆け抜けてきた同志であり、よき友でもあります。「婦人公論ff倶楽部」発足1周年記念のトークイベントでは軽妙で楽しいトークを披露。互いに対する敬意が、長きにわたって友情が続く秘密のようです(構成=上田恵子 撮影=本社・武田裕介) 【写真】色鮮やかなワンピースに身を包んだ渡辺えりさん * * * * * * * ◆私たちを繋いだのは如月小春さんだった 渡辺 木野さんは朝起きたら植木に水をやって、それから掃除をするんでしょう。すごいよね。見習いたいけどさ、そんな人いるのね。 木野 いっぱいいますよ。(笑) 渡辺 この会場に、朝から掃除する人います? ほら、こんなにお客さんいても15人くらいしか手挙げてないじゃない。 木野 以前は、私も週に一度くらいしか掃除できなかったの。でもうちの植木を見た母から、「水をやる暇もないほど仕事をして、花を枯らしているような人に、若い世代を育てることができるのかね」って言われて。その言葉は、本当に沁みました。 渡辺 その話を聞いて、お母さんの言葉をそのまま芝居の台詞に使わせていただいたもの(笑)。もうずいぶん前のことよね? 木野 そうね。20年になるかな。 渡辺 その時私が心を入れ替えてたら、いま頃痩せてたよね。水やりだけは毎日するようになったんだけど。それはそうと、私たちのおつきあいもかれこれ47年になりますね。出会った時私は23歳、木野さんは30歳くらいだったんじゃないかしら。 木野 当時は女性の劇作家・演出家がまだ少なくて、若手のえり、私、それから如月小春さんが注目されていたのよね。私は青森、えりは山形で、東北出身同士じゃない。えりには親近感が湧いたけど、小春ちゃんは東京の人だから近づきがたくてね。
渡辺 美人だしね。いや、木野さんも美人よ? だけど如月さんは、私たちとはまた違ったタイプの美人じゃない(笑)。知的でさ。 木野 私たち田舎者だから話が合わないのかなあって、ちょっと劣等感を抱いたりしたよね。 渡辺 でも木野さんは大学を出て美術の先生をしてから演劇を始めているので、しっかりした土台があるのよ。如月さんは東京女子大学だし。 私は舞台芸術学院出身でいわゆる専門学校だから、「高卒なんです」って如月さんに言ったことがあるの。そしたら「高卒で、作家も演出もできるなんてすごいわね」って。もうカチーンときちゃって。(笑) 木野 あの頃の小春ちゃん、とんがってたから。そのうち「アジア女性演劇会議」の実行委員長を務めるようになって、各国の女性演劇人を集めた会合に、私たちも呼ばれて。 渡辺 いざ話してみたら案外いい人でさ(笑)。「みんなで何かやりましょうよ」と言っていた矢先に、くも膜下出血で帰らぬ人になってしまった。 木野 私たちが芝居の話をするようになったのはそこからだから、小春ちゃんに引き合わせてもらったようなものね。 渡辺 女性ではもう一人、岸田理生さんが思い出深いわね。喫茶店で私の手を握りながら、「よかった、やっと女性が出てきてくれた。これまでどれだけ心細かったか!」と言われたことがあるの。 演劇のなかでもアンダーグラウンド、かつアバンギャルドなジャンルで女性がやっていくのは、想像以上に大変だったはず。その岸田さんも、如月さんが亡くなった2年後に帰らぬ人に……。私たち、生き残りみたいになっちゃった。