渡辺えり×木野花 69歳と76歳、47年の付き合いを振り返る。きっかけは如月小春さん。女性の劇作家・演出家が少ない中、東北出身で親近感が湧いて
◆演劇界における同志として 木野 私が最初にえりの芝居を観たのは、シアターグリーンかな。すごく印象深い演目で、「渡辺えり、面白い」ってインプットされたのね。 次に観た時は、イメージしているものが豊かで、言葉に力を持つ作家だと感じた。ずっと注目してきたから、一緒に芝居をやることになった時、躊躇なく組めたんだと思う。 渡辺 4年前、コロナ禍で空いてしまった劇場から「2週間、何かやってほしい」と頼まれた時も、真っ先に木野さんに電話したんです。大勢で舞台に上がれないから「トークショーを一緒にやってもらえませんか」と言ったら、「何言ってるの。やるなら新作じゃなきゃダメでしょ」って。 木野 ちょっと、やめてよ。私が怖い人みたいじゃない(笑)。それで、えりと私で二人芝居をすることになったけど、あれはかなり無茶な公演だったわね。 渡辺 無茶ですよ。『さるすべり~コロナノコロ~』は、1週間で書き上げましたから。でも思いのほか評判がよかったのよ。 木野 私はえりの芝居が好きで、もっと作品を観たい。だからそのためにできることがあるなら、協力したい、という気持ちがあるのね。作・演出ともにできる同世代の女性って、あとはもう永井愛さんくらいじゃない。互いに助け合っていきたい、といつも思っています。 渡辺 本当にそうね。
木野 えりとの仲が続いているのは、バカ話ができる呑み友達だからってことだけじゃないからね。根底にリスペクトがあるから、えりが頑張って芝居やっていてくれることに感謝しているし、いつまでも元気でいてほしいと思ってる。 渡辺 『さるすべり』の時もそうだったけど、木野さんは「こうしたほうがいい」と、意見をハッキリ言ってくれるのよね。説得力があるし、思ったことを正直に伝えてくれる存在はありがたい。 夢見る乙女みたいなところがある私に対して、木野さんはいつも冷静に現実を見て、手綱を引く役割を買って出てくださる。それでいて若手の演技指導になると、ほら、有名な武勇伝があるじゃないですか。包丁を持ち出したっていう。 木野 そんな物騒な話と違うわよ。あれは、相手役の人がちっとも驚いた芝居をしてくれないから、どうしたらもっと驚いてくれるんだろうって家に帰ったら包丁が目に入って。それで翌日、稽古場に持っていって、ふっと出してみたのよ。 渡辺 それは、驚いたでしょう? 木野 その驚き方がとってもよかったから、「それよ」って。 渡辺 それにしても演劇界って、いまも変わらず男社会ですよね。「女性差別なんてしません」みたいな雰囲気を出しながら、細胞レベルで差別していて、そのことに気づいてもいない男性演劇人が非常に多い。 だから同じ違和感を抱え、ともに闘ってきた女性は私にとってみんな同志。そういう意味でも、木野さんとはこれまでも、これからも、ずっといい関係でいられるような気がします。 (構成=上田恵子、撮影=本社・武田裕介)
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