認知症…物忘れなどの“頻度・程度”に注目 基本法成立「正しい理解を」…専門医に聞く
◆正常な心理なのに…実は“ボタンの掛け違い”
記憶の間違いは“最初のボタンの掛け違い”のようなものです。 例えば、お年寄りが財布などをどこかにしまい、その後で「財布がない、とられた、盗まれた」と訴える場合もありますが、それは軽度から中等度にかけて出やすい。認知症になったらすぐ出るわけではない。症状の流れ、経過を正しく理解する必要がある。そういった言動が強調されると誤解を生んでしまうので、誤解されないようにするのが、認知症基本法の大事なところです。 その「財布をしまう」というのは、盗まれちゃいけないから、大事にしまうわけで、正常な行動です。しまったところを忘れることは記憶障害だから、認知症と関係があるかもしれない。しかし「どこにあるかな」と探すのは正常な行動。で、どこにしまったか忘れる、もしくは、しまったこと自体も忘れているかもしれないけど、いずれにしても財布が見つからないことは事実。自分は財布を持っていない、そうすると「誰かが持っているかも」と考える。これも正常な心理でしょう。だから「しまった場所を忘れた」というところだけがボタンの掛け違いで、あとは正常な心理なんです。異常なことではない。そういう心理を理解しないといけない。そのあたりを理解すると、周囲の人も「否定してもしょうがない、理解できる」となりますね。
◆「出来事」は忘れても、感情が伴う記憶は残りやすい
──言われた言葉は忘れても、感情は忘れないと聞いたことがあります。どういう風にその方の感情と向き合っていくのが良いのか。 それも“認知症の人に限らず”だと思いますよ。記憶にはいろいろ種類があります。 「エピソード記憶」は毎日いろいろ話す、誰かに会うという出来事の記憶。それから「意味記憶」は漢字の読み方とか、いろいろな法則を覚えていること。あとは「手続き記憶」という自転車の乗り方、水泳など体で覚えているものです。 エピソード記憶は一番抜け落ちてしまう。意味記憶も、そのうち読んだり書いたりすることもなくなってしまう。三つ目の、手続き記憶の水泳、自転車に乗るなどは認知症になってもできる。そしてエピソード記憶の中でも、単なる出来事は、きっと我々も同じで、抜けてしまうわけですが、感情をともなう記憶は、感情というか情動に関係するような、脳の別のところもかかわるので、記憶の保持が強いんです。 記憶というのは、“覚えて”、それを“保持して”、“思い出して”ーーーの三段階なんです。保持する段階で、感情が伴うとより残っているわけですよ。そうすると、アウトプット(=思い出すこと)もできてくる。感情が伴う記憶は、単なる出来事のエピソード記憶と違って、脳に残りやすいんです。それは認知症でも、健康な若い人でも同じです。楽しかったり悔しかったり。正常の脳の働きです。認知症かどうかで分断しちゃいけない、基本法の本質です。