佐賀県小城市・江里山地区の棚田風景、春はレンゲ・初夏はホタル・秋は彼岸花「どこをいつ見てもきれい」
冬の朝日を受け、棚田のあぜ道が輝いていた。佐賀県小城市小城町の江里山地区は、県の中央部、天山山系南側の中腹に位置する小さな山村集落だ。標高250メートルに600枚を数える棚田が広がり、農林水産省が認定する「日本の棚田百選」に選ばれている。 【写真】小城市の清流で飛び交うゲンジボタル 「どこをいつ見てもきれいで、心が落ち着く景観でしょう」
市の地域おこし協力隊として活動している、田中あきさん(39)が胸を張る。
棚田を中心とした風景は、四季折々に豊かな表情を見せる。春には菜の花やレンゲが咲き、秋にはあぜ道を彼岸花が赤く染める。そして、棚田を潤す江里山川には初夏、ホタルが瞬く。
田中さんは昨年6月、江里山地区の魅力を若い世代に知ってもらおうと、初めてホタルの観賞会を開いた。市内の中高生ら約20人が参加し、ホタルが乱舞する幻想的な光景にふれた。
田中さんは「歓声をあげる人もいれば、近づいてじっくり観察する人もいて、みんな心から楽しんでくれた」と話す。
こうしたホタルをはじめ、川や雑木林に生息する生き物たちの生態系に重要な役割を果たしているのが棚田だ。水や空気を浄化し、さらに、斜面に階段状に配された田は水をため、治水ダムのような役割を持つことから、地滑りや土砂崩れを防止する効果もある。
ただ、棚田の維持は、地区の力だけでは難しくなっている。地区の人口は61人(2024年11月末現在)で、年代別で最も多いのは80歳代の16人。高齢化の影響で、近年は使われないまま放置されている「耕作放棄地」が増えているという。
「棚田は人の手でしか維持できない」と田中さん。地域を活性化しようと、月に1度座談会を開いて住民同士の交流の場を設けているほか、棚田を通した交流人口を増やすため、SNSで棚田の魅力を広く発信することにも力を入れている。
そして2023年からは、棚田での酒米作りも始めた。主に50~60歳代の住民らが集まって農作業を行うグループ「二十日会」に所属しており、地元の天山酒造の協力のもとで、棚田米を使った日本酒を生み出した。瓶のラベルにあしらわれているのは、美しい棚田のイラストだ。